タンス株
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「おばあちゃん」
「はあ?」
「聞こえますか?」
「はあ?」
「あのね、もうすぐね、株券が電子化されるの。電子化。わかる?」
「はあ?」
「紙の株券がパアになるかもしれないんですよっ」
「なんじゃと」
ちゃんと聞こえているじゃないか。
「わしゃあなあ、なんでもタンスにしまう癖があるんじゃ。あんたひとつ、探してみてくれんか」
「ご家族は?」
「じいさんは先月死んでの。わしひとりじゃ」
「わかりました。株を買った記憶はありますか」
「株はないが、東京電力やJR東海や新日鐵なら飼っておるがの」
「わあ、それですよそれ」
市役所の福祉担当者は、いそいそとタンスの引き出しをあけてのけぞった。
「大きな声を出すでない。東京電力じゃ」
「東京電力って猫の名前ですか。なんて紛らわしい。それにタンスで猫を飼わないでください」
「人の趣味じゃ、ほっとけ」
(了)
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