密漁
柄にもなく夜遊びをして、乗り継ぎ線がなくなってしまった。終電は近辺のターミナル駅までしか行かない。
高校生の悟は改札を出て、線路に沿って歩き始めた。支線は駅が四つほどしかなく、終着駅から三十分ほど歩けば帰宅できる。合計で二時間もあればいい、と単純に考えた。
だから、線路沿いの道路が弧を描いて線路から離れ始めたときは血の気が引いた。
なんとまあ、戸建て住宅が線路にぴっちりと寄り添い、まるで道路を排除するかのように密集しているのである。いくらローカル線とはいえ、うるさくないのだろうか。窓際にいれば体から数十センチのところを電車が通り過ぎていくような作りである。
「信じられねえ」
とつぶやき、悟は自販機で缶コーヒーを買った。
缶コーヒーを飲みながら道なりに歩いていくと、百八十度反転させられ、元の駅に戻りそうになった。どんな設計をしているんだ。
悟はあきらめ、かなりの距離を戻って、線路を渡り、反対側に出た。こちら側はしばらく順調に線路沿いの道を歩くことができたが、また弧を描き始めた。
ただ、さきほどと違うのは、線路の脇が空き地になっていることだ。私有地らしく、鉄網で覆ってあったが、通り抜けるくらい、問題ないだろう。
囲いの下には小さな出入り口らしい、板が張り付けてあった。押すと奥に向かって跳ね上がる。悟は板をくぐり抜け、先に進んだ。思ったより雑草が深い。
線路側には凶暴そうな鉄網が張り巡らされている。
途中で、人とぶつかりそうになった。
「あ、おたく、向こうはあきませんよ」
と男は言った。
「どうしてですか」
「裏木戸みたいなところから入ってきたんですが、入ることはできても、出ることはできないんですわ」
「はー」
悟はため息をついた。
「じゃあ、いっしょに戻りましょう」
しかし、悟の入ってきた木戸も同じ仕組みだった。道路側から押し開けることはできるが、空き地側からはロックされてるらしく、動かせない。
「困りましたなあ」
まあ、いいや、どうせ夜中に帰ったって、朝帰りになったって怒られるのは同じだし。
悟は、どさっと草むらに身を横たえて眠ってしまった。
朝。
「大漁やなあ」
という思念とともに、空に吸い上げられていくふたり。
悟はまだ目覚めてもいない。
(了)
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