初雪通勤

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 今年はじめての雪が降った。
「寒いでチュー」
「こんな日にどうして外出するのかねえ」
「宮仕えは辛いでチュー」
「おれは関係ないだろ」
「路線バスがなくなってしまったから仕方ないでチュー。それにここは暖かいでチュー」
 びすは懐の中にすっぼりと隠れている。私はざくざくと雪を踏みしめて、杉並王宮を目指す。
「ガソリンも電源も必要のない徒歩は最強の移動手段でチュー」
「そういうことは自分で歩いて言え」
「ダイエットにも最適でチュー」
 痛いところを突かれて私は黙った。
「おい。着いたぞ」
 びすは懐から飛び出して、階段の横に設置されたネズミ専用の通路を駆け上ろうとして、ずるずると滑り落ちてきた。段差のない坂は、降り積もった雪が凍りついている。
「がんばれー」
「滑るでチュー」
 びすが四苦八苦しているうちに、ほかの電子ネズミも集まってきた。眺めていると、下からだんだん押し上げていって、階段の上にたどり着いたネズミがしっぽを垂らして仲間を引き上げている。
 かわいい。
「帰るときにはメールしろよー」
 と言い残して帰宅した。
 夕方、いつまでもたっても、メールが来ない。
 どうなってんだ、と思っていたら、「ただいまでチュー」というびすの声とともにドアに衝突する音が聞こえた。
 玄関の外には、吹っ飛んだびすの姿があった。
「明日からはスノーボードで通勤でチュー」
 杉並区から電子ネズミ用スノーボードが支給されたらしい。
 どうせなら人間にも配ってくれないかな。

(了)

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