海外にて

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 生まれてはじめて海外旅行に行くことになった。円高還元ツアーにのっかって、一路フランスへ。
 ところが、フランス語が得意と豪語していた妻が、突然、盲腸炎で入院してしまい、ひとりで街へさまよい出ることになった。言葉もわからず、社会システムもわからない。
 とりあえず新聞でも買ってみよう。

 私はもの申す。ありがとう。私、フランス語、ない。英語、ある。(フランス語)

 私は誰ですか。私はホテルから来ました。日本のホテルです。いいえ、私はホテルではありません。日本にはホテルがありません。私はいわゆるひとつの庶民です。居酒屋で酒を飲みます。ワタミでは働きません。(英語)

 喋っているうちに、なにがいいたいのか、わからなくなってきた。そうだ、スタンドで新聞を買おうとしていたのだった。自己紹介など必要ない。

 ヤギは紙が好きです。私は新聞を食べません。私は新聞を読みます。ヤギに新聞を与えたまえ。アーメン。(英語)。

 私は英語が向いてないのだと思う。英語で考えようとすると、頭がもやがかって錯乱する。
 新聞売りのおじさんは頭を振っている。

 わたし、日本人。フランス語、好きではない。(フランス語)

 殴られた。
 あああ。

 円だ円だ、私は円を持っているぞ。(英語)

 千円札を振り回した。
 わっと人だかりができた。

 これでもくらえ。(日本語)

 千円札をバラまいて、ホテルに帰って、泣きながら寝た。

(了)

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