裸の王様

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「王立科学アカデミーのチャン教授です」
「通せ」
「王様、ステルスツールができました。完成度は70パーセントです」
「70パーセント?」
「透明化が発動するのに条件があります」
「申してみよ」
「ストレスが溜まっている必要があります」
「わははははは」
 ふだん笑わないことで有名な王様が高笑いした。
「余はストレスが服を着て歩いているようなもの。それは条件にならん」
「では、この布地で好きな衣装をお作りください」
 チャン教授は一礼して退いた。
「ぐふふふふ」
 家来をすべて遠ざけ、王様はひとりで笑った。
「いいぞこの発明は」
 仕上がってきた衣装を着て、ひとりでにたにた笑った。
「うむ。鏡にも映らないのか。さすがチャン博士」
 王様は、そのまま王宮の長い廊下を抜け、出口を固めている兵士の鼻をかるくつねり、街へ繰り出していった。
 余は空気じゃ。誰も余の姿を目にすることはできん。
 くはははは、と声なく笑いながら踊り歩いていく王様の姿を商店街の人々は唖然として見送った。
 うれしさのあまり王様のストレスは吹っ飛んでしまっていたのだった。

(了)

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