ががが

 gagagaというバンドはある意味、ビートルズ以来のカリスマ性をもつ。
 いつどこの国でコンサートが行われるかは、当日まで完全にシークレットだ。たとえ会場のキャパが何万人でも客は集まるに決まっているので、告知をする必要がない。
 音楽と無縁な私でさえ、さすがにgagagaの名前は知っている。朝、武道館の前を歩いていて、一斉にgagagaライブ本日開催の旗が立つのをみて、戦慄した。
 そのまま会場へ。
 あっという間に満員御礼となり、メンバーが登場した。
 彼らの音楽に言葉はない。ひたすら演奏が続く。
 ががが、とエレキギターがリズムを刻んだ瞬間から、もはや聴衆の心はぶっ飛んでしまった。
 残像の音楽、と人は呼ぶ。クライマックスでギターもドラムスもサックスもが、が、が、がとリズムを刻む。私は見た。が、が、がと体を震わせ、そのたびに前の席の女の子が分裂するのを。
 分裂分裂分裂。
 武道館から人が奔流のように溢れ出す。
 まるで大河の源のようだ。
 gagagaによって日本の人口減が食い止められているという噂は都市伝説だと思っていたが、現場に立ち会うとあながち嘘だともおもえない。
 ライブが終わってフラフラになって帰宅すると、37人の自分がたった一人の妻に「おい、誰を選ぶんだ?」と凄んでいた。
 もちろん、私も凄んだ。凄んでどうなるものでもないが。

(了)

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