プロトタイプ

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「電子マウスを使っていますか」
 と役所からメールが届いた。
 電子マウス?
「使っているけど、それがなにか?」
「なにに使っていますか」
「パソコンの操作」
「おおっ……! そこまでできるようになりましたか」
 なんだか先方でじーんと感動している雰囲気が伝わってくる。コンピュータが感動するかどうかは別として。
「それ以外になにに使うんだ?」
「いや、それは。ちゃんと働いていますか」
「まあね」
「……あっ、ちょっと待ってください。嘘はいけません。パソコンをさわらせてもらったことはないそうです」
「誰とメールしているんだ。というかチャットかこれは」
「こいつじゃない?」
 後ろからリアル妻の声がした。
 しっぽを持ってネズミをぶら下げている。
「うわあ」
「離せこら」
 と甲高い声でネズミが叫んだ。
「おら電子マウスだぞ」
「うるさいわね」
 妻は生ゴミの箱にネズミをたたき込んだ。
「ちゅー」
「おまえはいったいなにをしているんだ」
「前任者からマウスにはなにをしてもいいと聞いたので、小型頭脳を埋め込んでみたんですが……」
「なんの役に立つ?」
「いや、それがわからないのでおたくで実験を……。うまくいったら量産する予定なんですが」
「するな」

(了)

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