はずれ刑事

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 仕事中はテレビを流しておく主義である。
 ふと目を上げると、猿が真っ赤な顔をして叫んでる映像があった。次の瞬間、炎上する車。そして、飛び込みに失敗して腹を打つ女。トマトの収穫。
 なんだこの脈絡のない映像はと思っていると、番組のタイトルが出た。
「はずれ刑事 わからない派」
 思わず見入ってしまった。
 捜査一課に新人刑事が配属されてくる。あれやこれやあって、事件の第一報が入った。
 課内に緊張が走る。
「隅田川で青鬼発見」
「いくぞっ」
「あの……」
「なんだ、早く言えっ」
「警察って鬼の面倒まで見るんですか」
 と新人が質問する。
「バカっ。青鬼ってのは溺死体のことだ」
「できし?」
「えーと、あれだ、溺れ死んだんだよ」
「あー、カナヅチですか」
「知るかっ」
「水上バスに轢かれたのかなあ」
「だからそれを調べに行くんだよ」
「その場合、交通課の管轄じゃないですか」
「水上バスはおまえの勝手な思い込みだろ」
「でも、痛そうですよ」
「置いていくぞ」
「あ、まってください」
 ようやく現場に到着する。
「現着」
 と無線で報告する。
「キンチャク」
 と新人がいう。
「口から出任せをいうなっ」
「すみませんっ」
「もうおまえは黙ってろ」
「はいっ。でもその前にもう一つだけ言っていいですか」
「最後だぞ」
「はいっ。イソギンチャク」
「……なんだそれは」
「わかりません」
「わからないのはおまえだっ」
 いい加減バカバカしくなってきたので断片的にしか見ていないが、新人のため現場は混乱し、腐乱死体はどこかへ消えてしまい、捜査はまったく進展しないまま、課長が責任をとらされるところで第一回が終了した。
 第二回目の予告編は、こうなっていた。

「はずれ刑事 ニワトリ派」

 次は録画して観ようと思う。

(了)

ここから先は

62字

¥ 100

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。