崩壊への序章

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 お金が尽きて家を売り飛ばし、おそらく日本で一番安いのではないかと思われる家に引っ越した。一見段ボールハウスで、内実も段ボールハウスだが、家は家である。

「とうちゃん」
 と息子が壁を指さした。
「穴、あいてる」
 犯人は探すまでもなかった。
 電気カーペットの上で顔を洗っているやつである。
「家で爪研ぎするんじゃねー」
 と怒ってみたが、猫は涼しい顔をしている。
 いままで家にあった段ボールで自由に爪研ぎさせてたもんなあ。
 エコハウスに猫は鬼門。
 心を鬼にして出ていってもらうことにした。エサくらいはあげるが、住み処は別。あんたは、外の世界で生きなさい。
「ニャガーッ」
 って怒ってもあとの祭りである。
 翌日、またしても猫は涼しい顔をしてカーペットの上で熟睡していた。
 息子が壁を指さす。
「自分で出入り口を作ったみたい」
 こいつには壁はないも同然か。
 避妊はしているものの、我が家のペットは美人猫である。先ことを考えると、いまから頭が痛い。

(了)

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