座布団のある家

 二件の取材をこなし、フラフラになって帰宅した。手を洗い、水を飲んで、がらっと襖を開くと、暗い和室の中央に座布団が敷かれ、鵞鳥が座っていた。
 暗い中でもぽっとあたりが明るくなるようなまっ白な鵞鳥は、図体が大きく、いかにも疲弊してみえた。
「があちゃんかい?」
「歳をとって、もう動けませんよ」
 と鵞鳥は言った。
 私は次の襖を開いた。
 座布団の上に妻が座っていた。
「退院してきたよ」
「電気もつけずになにをしているんだい」
「背が届かないの」
「そりゃあ座っていちゃあねえ」
「疲れちゃって、もう動けないよ」
 次の襖を開くと、座布団があった。
 どっかりと座り込むと、私ははあーとため息をついた。
 二度と立てないような気がした。
 襖ががらっと開いて、息子が入ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
「とーちゃんも座布団に座っちゃったの?」
「おれももう歳だからなあ」
「えいっ」
 息子が座布団を引き抜き、私はころころっと転がった。
「腹減ったよ」
「よっこいしょ」
 私はヨロヨロと立ち上がり、麻婆豆腐を作った。

(了)

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