誤認逮捕

 名探偵、目黒考次郎が犯行現場に入っていくと、五人の男が手錠をはめられていた。
「あれ? 被害者は」
「もう運んだ」
 と警部。
「今回は殺人事件じゃない。殺人未遂だ」
「え、被害者はまだ生きてるんですか」
「今頃、救急車の中だな」
「では失礼します」
「帰るな帰るな」
「だって、犯人は捕まっている、被害者は死んでいない。私はなにをすればいいんです?」
「こちらにずらっと居並んでいるのが間宮五人兄弟だ」
「皆さんよく似たお顔で」
「上から一郎次郎三郎四郎五郎」
「説明不要なくらいわかりやすいですね」
「一郎がワインに毒を入れ、次郎が首を絞め、三郎が刺し、四郎が撃った」
「死ぬでしょう、それは」
「五郎が医者だった」
「わはははは。出来すぎた話だ」
「ただし、瀕死の被害者を自分の病院に運んで犯罪を隠蔽しようとした」
「それで五人逮捕ですか」
「いやな響きだ」
「たしかに」
「なんとかならんかね」
「私にどうしろというんです。犯人を増やすんですか減らすんですか」
「どちらでもでもいいよ」
「じゃあ、間宮兄弟に話を聞いてみましょう。私は名探偵です。真実を語ってください。まず一郎さん」
「オレは毒なんて入れていない。ワインを混入して毒を薄めたんだ」
「なるほど。次郎さんは?」
「失神していたから起こしたんだ」
「三郎さんは?」
「毒を吸い出してやろうとしたんだ」
「四郎さんは?」
「血にハエが寄ってくるから撃った」
「五郎さんは?」
「患者がいたから治療した」
「みんな殺意はないようです」
「最初に毒を入れたのは誰だ」
「本人だったりして」
「これだけ容疑者がいて自殺未遂かよっ」
 警部は天を仰いだ。

(了)

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