生き残り
東京から野原が失われてひさしいが、それではやっぱりダメだということになった。これからどんどん人口が減っていくのに、建物ばかり過密にしたって意味がない。
とはいえ、都知事が「どこか野原区になれよ」と言ったときに、「はい」と名乗り出る区はなかった。杉並区も聞こえないふりをした。
犠牲になったのが西東京市である。
小田原城攻めかよという勢いで、日本全国から巨大トラクターが集められ、四方八方からどんどん建物をつぶしていった。さすがに人や動物は壊さなかったようだけど、細かいところはよくわからない。
大騒ぎが終わって、東京の西側にぽつんと十円禿のような野原市ができた。
最初は子供が喜んで遊んでいたが、やがてホームレスのほうが勢いを増した。生存がかかっているので当たり前の話ではある。
学者が観察していると、彼らはなけなしの廃材や生い茂ってきた雑草を使って、竪穴式住居を造り、野良犬を狩ったり、たんぽぽなどの食える植物を採取したりして原始的な生活を始めた。
これは面白いというので野原市はドームで覆われ、歴史の観察対象となった。
が、数十年後、観る側と観られる側はすっかり逆転した。ドーム内部では野生化したホームレスが元気に走り回り、ドームの外では少子高齢化と経済の悪化で疲弊した人々がドームの壁に張り付いて中を羨望の目で眺めていた。
数千年後、文明は滅び、ドームからあふれ出た人々が世界に散っていった。
「地球はオラたちのもんだぞ」
と言ったとか言わないとか。
(了)
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