睡眠時無責任症

 夫は遊び人だ。競馬、競輪、競艇、麻雀とやらないギャンブルはない。酒も好きだ。
 たまに家にいると思ったら、徹夜でプラモデルを作ったりしている。
 それでも朝になると眠そうな顔をしてちゃんと会社に行くところだけはえらい。仕事をしているんだかなにをしているんだかしらないけど。

「部長、決裁してくださーい」
 部下がふたりでやってきた。
 加藤は、ふわーっと引き出しをあけてはんこを取り出すと、ぽんぽんと上下させ始めた。部下は書類と朱肉を交互に出したり引っ込めたりするのに大忙しだ。5分ほどで加藤の仕事は終わる。
 それから、加藤の社内彷徨が始まる。
「いよっ、専務っ」
「なんだね加藤くん」
「いつになくご血色もよく」
「そうかね」
「もう専務ったら」
「なんだ気持ち悪い」
「単刀直入に申し上げます」
「おっ」
「ランチなどいかがでしょう」
 専務はどっと脱力した。
 こんなふうにして、会う人会う人、よいしょしまくって、夜の街に消えていく。

「あなた」
「うん?」
「そんなに遊び歩いてばかりいてよく出世するわね」
「まあな」
「たまにはちゃんと寝なさいよ」
「寝てるよ会社で」
「え?」

(了)

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