神田松之丞に講談の楽しさを教えられる。

 神田松之丞にがつんとやられたのは、2018年9月7日のことである。
 笑福亭鶴瓶、神田松之丞のふたりで「見台と釈台」というイベントがあった。そこで聴いた「中村仲蔵」が素晴らしかったのである。
 私はいまだに歌舞伎をみたとのない不勉強者だが、中村仲蔵は歌舞伎の世界の話だ。厳しい身分社会である。一番下が稲荷町。その上が中通り、相中、上分、名題下、そして一番上が名題。仲蔵は一番下から始めて名題まで出世するが、座付き作者に嫌われ、イヤな役ばかり振られる。
 『仮名手本忠臣蔵』で振り当てられた役が、五段目・山崎街道の斧定九郎。一幕だけ、しかもあまりに退屈なので、弁当幕とも言われている部分だ。ここで仲蔵工夫を凝らし、傘を手にして登場する。客席はしーん。しまった、受け損なったか、と思う仲蔵。しかし、客席は声もなく感動していたのであった。
 と、文にしてしまうと面白さが伝わらないが、圧巻の面白さであった。初めて講談に出会う人、松之丞から始めることをお薦めします。「中村仲蔵」に当たったら大ラッキー。

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