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アナロジー思考とは? アナロジーの意味と使い方を事例を交えて解説

アナロジー思考とは、事象(物事)の特徴を抽象化し、構造が類似したほかの事象と結びつける思考のこと。たとえば、業界Aと業界Bのビジネス構造が同じだ、と結びつけるのがアナロジーです。そして、構造が同じものを見つけ出せる力をアナロジー思考力と言います。

まだピンとこないかもしれませんね。
例題を見ながら、一緒に考えてみましょう。


アナロジー例題

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【例題1】
AI技術と類似しているものは何か?

【アナロジー的回答】
原子力

【解説】
安全説と危険説がある。人類のコントロール下にあるうちは利便性をもたらすが、コントロール不能になったら大きな損失をもたらす。また軍事利用が可能である点(構造)も類似している。

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【例題2】
メンタリストDaiGoのビジネスモデルと類似してるものは何か?

【アナロジー的回答】
商社

【解説】
海外から多様な商品を仕入れて国内に提供する。商品が情報(海外論文)になっているのがDaiGoのビジネスモデル。

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【例題3】
現代アートと類似しているものは?

【アナロジー的回答】
ガンダム

【解説】
デュシャンが展示した作品「泉」(男性トイレの便器)以降、芸術の定義拡張が始まり、様々なものが芸術と称されるようになった。これと同様に、宇宙世紀シリーズから外れたガンダムアニメが多数作られ、ガンダムの定義拡張が始まった。

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このように、同じ構造をしているものを見つけてくるのがアナロジーです。


比喩や転用はアナロジーなのか?

アナロジーの解説をする際、比喩や転用の話が必ず出てきます。私見を述べれば、広義では比喩や転用もアナロジーですが、狭義ではアナロジーではありません。どういうことか説明します。


比喩

「まるで雲のように軽い◯◯だ」「海のように深い◯◯だ」といった比喩表現は、特徴を一つだけ抽象化して対象物に当てはめたものです。この「特徴が一つ」なのが肝です。特徴が一つだけでは点であるため構造にはなりません。構造には最低でも2つ以上の点、そして点と点を結ぶ線(関係性)が必要になります。
一つの特徴を抽象化して類似したものに喩えることを表面的類似と言い、構造を抽象化して類似したものに当てはめることを構造的類似と言います。とはいえ、抽象化して何かに当てはめているため、広義においてはアナロジーと言ってもいいでしょう。


転用

2019年発売の『メモの魔力』(著 前田 裕二)には、事実⇒抽象化⇒転用といったノウハウが記されていました。一見、抽象化してほかの事象(物事)に転用しているためアナロジーに見えます。しかし、転用は類似したものを見つけてきたわけではありません。「自分の仕事に取り入れたらどうなるのかな?」といった感じで、特徴を取り入れたり、応用したものです。とはいえ、転用も抽象化して何か別のものを取り込んでいるため、広義においてはアナロジーと言ってもいいでしょう。

このように、狭義ではアナロジーとは言えないが、広義においてアナロジーと言えるのが「比喩」と「転用」なのです。私は便宜上「アナロジー」は狭義の意味において使用しています。

ちなみに、アイディアを転用して落とし込むまでの流れを上手く解説してくれている動画があります。岡田斗司夫さんの動画です。非常に参考になるため、視聴をオススメします。

アナロジーには、抽象化が必須

アナロジー、比喩、転用、どれも共通しているのが抽象化です。アナロジーと抽象化は切っても切れない縁で結ばれています。アナロジーをするには、抽象化をしなければならないからです。

アナロジー思考力を身に付けたいなら、抽象化思考力は必須です。抽象化さえできれば、アナロジーの半分以上はできたようなものです。後は、比喩にするのか、他に転用するのか、類似しているものを見つけるのか、好きなアプローチを取ればいいだけです。

では、抽象化思考力を鍛える良い方法は何か。
何か一つを推すならば、間違いなく「図解化」です。

図解化はそれ自体が抽象化する行為です。本の内容を図解化してみるのもいいですし、自分の考えを図解化してみるのもいいでしょう。日常的にやれることがいっぱいあります。

図解化は、抽象化思考力だけではなくアナロジー思考力を鍛える上でも役立ちます。何か図解化したら、「これと似た構造をしているものは何かな?」と考えてみるのです。この問いがアナロジーへの入口になり、類似性のあるものを見つけられるかもしれません。もし見つけることができた時は、得も言えぬアハ体験を経験することでしょう。

さらに鍛える方法を知りたい方は、抽象化思考力を鍛える3つの方法&類推思考力を鍛える4つの方法を一読ください。


アナロジー思考(抽象化思考)がもたらす5つのメリット

アナロジー思考力(抽象化思考力)を身に付けると、日常生活において5つのメリットを享受できます。


1. 比喩表現が上手になる

島田紳助やくり~むしちゅ~の上田晋也は、喩える力が抜群に高いです。アナロジー思考が身に付くことで、こうした喩えが日常生活でポンポンと出てくるようになります。話しているときだけではなく、文章を書いているときもそうです(特に小説やエッセイを書いているとき)。

また、アナロジーを用いて構造を説明できれば、相手の理解を促すことができます。
たとえば、「この話を君の好きな◯◯に喩えると、~~と同じなんだよ」と言えれば、相手は自分の知っている知識と結びつき、「なるほどね」と理解しやすくなります。一言で言えば、説明上手になるのです。

あなたの周りにも説明上手な人はいませんか? 高い確率で、比喩表現やアナロジーを用いて説明していると思います。


2. 「一を聞いて十を知る」ができるようになる

抽象化思考力がある人は、一つの教訓から多くを学べます。一方、抽象化思考力がない人は、一つの教訓から一つのことしか学べません。

私がセミナー設営の責任者をしていた時のことです。机の上に配布資料を漫然と置いていくスタッフを見て、「資料はきちんと揃えて並べなさい」と注意しました。配布資料は机に置いてさえあればいいものですが、綺麗に揃えるといった美意識がほかの仕事でも表れると考え、指摘したのです。
もしこれを「セミナーの資料は揃えて置く」と抽象度の低い理解をしていたら、私はことあるごとに「揃えなさい」といった類の注意をしなくてはいけなくなります。そうなれば、マニュアルばかりが分厚くなり、仕事が窮屈になります。

抽象化思考力が低い人間は、具体的なマニュアルがなければ行動できません。一方、抽象化思考力が高ければ、クレド(信条)といった抽象度の高い指針さえあれば、適切な行動を取ることができます。

クレドとは、マネジメントでは有名なツール(折り畳の名刺サイズ)の一つで、リッツ・カールトンホテルが発祥であることが知られています。クレドの中に書かれている、「サービスバリュー」には12の行動指針が書かれています。一部引用します。

1.私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します。
2.私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします。
3.私には、ユニークな、思い出に残る、パーソナルな経験をお客様にもたらすため、エンパワーメントが与えられています。
4.私は、「成功への要因」を達成し、ザ・リッツ・カールトン・ミスティークを作るという自分の役割を理解します。
5.私は、お客様のザ・リッツ・カールトンでの経験にイノベーション(革新)をもたらし、よりよいものにする機会を常に求めます。
引用元:https://www.ritzcarlton.com/jp/about/gold-standards より

など、こうした抽象度の高い指針が書かれており、スタッフがこの指針に沿った行動を各々が考え行動しているのです。ちなみに、スターバックスでも接客マニュアルはなく、スタッフの裁量に任せられています。


3. 深い評論ができるようになる

これは先の「一を聞いて十を知る」と似ていますが、抽象思考力が高い人は、心情を察する力があります。「なぜあんなことを言ったんだろう?」「どうしてあのような行動をとったのだろう」と問い、時にはさらにもう一つ二つ多く「なぜ」と問うことができます。「なぜ」を問うほど高い視点から思考することができ、相手の気持ちを深く察することができるのです。

私が特にこれを実感するのが日常生活よりも映画を見ている時です。映画はTVドラマとは違って、登場人物の心情をセリフではなく、表情や行動、しぐさなどで表現します。「なぜあの行動をしたのか?」と抽象化して考えないと、登場人物の心情は理解することはできません。これは本でも同じです。

手前味噌ですが、私が書いた絵本『100万回生きたねこ』の書評があります。参考にご紹介します。

私の評論を簡潔に述べると、
主人公のとらねこが100万回泣いたのは、死んだ白猫に対してだけではなく、今まで(100万回)自分を飼って愛してくれた飼い主に対して泣いたのだ。題名は「100万回生きたねこ」だが、作中に「100万回生きた」の文字は出てこない。出てくるのは、トラ猫が口にする「100万回死んだ」と「100万回泣いた」だ。なぜ、100万回死んだと言っていたとらねこが100万回生きたことになるのか。私が思うに、しろねこを通じて愛することを知り、その白猫の死をきっかけに、今まで愛してくれた人がどんな想いで泣いたのかを理解し、今まで死んだ分の人生への解釈が変わったのだ。そして、オセロがひっくり返ったように、死んだという解釈が生きたにひっくり返ったのだ。

絵本『100万回生きたねこ』の100万回泣くシーンを、多くの人は白猫に対して泣いたと解釈しています。もちろんその解釈もありですが、それでは作者が作中で100万回生き返らせた意味があまりありません。なぜ輪廻転生を繰り返すシーンに絵本の半分を費やしたのか、なぜ100万回生きたとタイトルにあるのに、とらねこは100万回死んだと言い、最後100万回泣いたのか。そう考えると、私の解釈も大いに成り立ちます。「なぜ?」という問い、抽象化思考力がなければこうした解釈はできません。

ほかにも、『100万回生きたねこ』は仏教の話だ、といった観点からも語っているので、興味があればご覧ください。絵本『100万回生きたねこ』の書評


4. アイディアが出るようになる

抽象化思考力のある人は、何か面白いものを見つけたら、「何が面白かったのか」「なぜ面白かったのか」と思索し、その本質に迫ることができます。そしてその本質に類似したものを見つけたり、または、自分の領域にも持ってきて応用することができるのです(アナロジー)。

『ケプラーの法則』がアナロジーから端を発した発見であることは有名な話です。ほかにも、チャールズ・ダーウィン『種の起源』も実はアナロジーがきっかけとなっています。
ダーウィンは、『地質学原理』を読み、地層が長い時間をかけて変化していくように動植物たちもまた長い時間をかけて変化していったのではないか、と考えたのです。

天才レオナルド・ダ・ヴィンチもアナロジーを用いた発見をいくつもノートに記しています。発明家トーマス・エジソンもアナロジー思考を大切にしていました。エジソンは、「過去に成功したアイデアを応用してみる。どのようなアイデアでも、自分が抱えている問題においてオリジナルであればよい」と語っていたそうです。偉大な発見や発明の裏には、アナロジー思考があったのです。

ビジネスパーソンなら、アナロジー思考を手に入れてビジネスアイディアをひらめきたいと思うはずです。世の中には、様々な発想法があり、私も「発想法」と名の付く本は散々読み漁ってきました。そして最終的に行き着いたのがアナロジー思考です。アナロジー思考こそ最強の発想法であり、思考法であると結論づけました。

世の中はアイディアで溢れています。今あなたの身の回りにもたくさんのアイディアがきっとあります。例えば、ボールペンや修正ペン、ホッチキス。何でもいいです。アイディアのない商品はほぼありません。何かしらの特許が取得されています。アナロジー思考さえあれば、こうしたアイディアを思うがまま、自分のものにできるのです。世界中にあるアイディアを拝借できるのですから、これ以上の発想法はありません。


5. 類比して考えられるようになる

「アイディアと行動、大事なのはどっち?」といった言説を時々耳にします。あなたはどちらが大事だと思いますか? 「アイディアよりも行動が大事って多くの実業家も言っているし、行動かな」と考えた人もいるかもしれませんし、「アイディアがないと始まらないから、アイディアだろ」と考える人もいるかもしれません。こうした議題に対して、類比できるものを見つけてくることで問いの本質が見えてきます。

類比先として私は、「車のハンドルとエンジン」を挙げます。
アイディアはハンドルに置き換えられ、行動はエンジンに置き換えられると思いませんか。

「ハンドルとエンジン、どちらが大事か?」と問われたら、あなたはどう答えますか? 「どちらも大事、両方あって意味がある」と答える人が多いのではないでしょうか。

このように、構造が同じものと類比することで理解が深まり、物事の本質が鮮明に見えてきます。この類比から言えることは、「アイディアと行動に甲乙つけようとするのは無意味」です。


アナロジー思考に役立つ学問

アナロジー上手になるには、普段から抽象的な情報に触れておくことが大切です。たとえば、世界史。私の経験上、世界史は類比して考えることが多い学問です。A国のAの出来事は、以前B国に起きたBの出来事と似ているな、といったように。おそらく歴史好きな方は、こうした気づきを何度かした経験があるかと思います。これは、世界史自体が抽象的なものを扱っているからです。

「えっでも、何年に誰だれが何々したという歴史の勉強って、抽象度の低い具体的な話だと思うんだけど」と疑問に思うかもしれません。確かに、年号や人物名を覚える暗記ものとしての歴史は抽象度が低いです。しかし、歴史の流れや構造に着目すれば抽象的に捉えることができ、類比することができます。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言いますが、歴史の醍醐味は暗記ではなく、いかにアナロジーをして今の時代に活かせるかです。個別具体的な年号や名前を覚えても、世界史の全体像や構造が見えていなければ、宝の持ち腐れです。世界史のほかには、哲学や芸術も抽象度の高い学問ですのでオススメです。

「文系ばっかりだな」と思われたかもしれませんね。アナロジーや抽象化は文系の専門分野ではありません。理系科目でも抽象化は鍛えられます。数学がまさにそうです。数字や記号といったものは抽象化されたものであり、それを用いて考える数学は抽象度の高い学問と言えます。

ただし、数学を「数式を覚えて解くもの」と捉え、「よく理解できないけど、数式に当てはめれば答えが出る」といったやり方をしていれば、先の歴史と同じで暗記ものになってしまいます。それでは、抽象的な思考を動かしているとは言えません。

数学を勉強している際、「何でこの公式なら解けるんだ? どうしてこの公式になるんだ?」と悩んだ経験はありませんか? 得点を上げることだけを考えるなら、こんなことに悩んでいるよりもさっさと公式を覚えてしまったほうが理にかなっています。そう割り切って数学を勉強した人も少なくないでしょう。しかし、抽象化思考を鍛えることを目的にした場合、このやり方はオススメできません。理解できるまで悩んだほうがいいです。悩んでいる間は、抽象的な思考を大いに使っている時間だからです。

以上のことから分かるように、「歴史や数学の成績が良い=抽象化思考が得意」にはならないのです。成績は低いけれど、アナロジーが得意な人はいくらでもいます。


引き出しは多く広いほうがいい

アナロジーは、事象Aの構図と類似した事象を探してくるもの。そのため、広く様々な引き出しがあるほうが、類似したものを見つけられる確率が上がります。

特定の分野ばかり詳しくなるのは、視野狭窄になり、思考の幅が狭まります。好奇心を持って様々な分野を覗いてみることは、視野を広げる意味でもアナロジーが得意になる意味でも大切です。

書籍『RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる』(著 デイビット・エプスタイン)には、度々、アナロジーの重要性を説く記述があります。その一部を引用します。

予期せぬ問題を前に、どれだけの幅(レンジ)のアナロジーを使えるかによって、どれだけ新しいことを学べるかが決まった。ダンバーのプロジェクトの期間中に、何一つ新しい発見ができなかった唯一の研究室では、全員のパックグラウンドが似ていて、非常に専門に特化しており、アナロジーはほぼ使われていなかった。(166p)

専門バカになればなるほど、特定の分野しか知らないため、たとえ抽象化思考力があったとしても、アナロジー先、つまりは引き出しが少なければアナロジーはできないのです。

最後にアナロジーの事例を一つ。
私が以前にfacebookに投稿したものです。

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「窓」は「間戸」が語源です。
日本庭園は、縁側から眺めるのではなく、部屋から間戸越しに眺めるものです。部屋から眺める景色は、まるで一枚の絵のように映ります。間戸が額縁の役割をはたしているのです。
 
部屋から眺める景色は間戸で切り取られ、庭園全てを観ることはできません。しかし、そうすることで庭園を美しく魅せているのです。日本ではこれを「生けどる」と呼びます。
 
コピーライティングでも同じことが言えます。
売れないコピーは、売り手の伝えたいことがダラダラと書かれています。それでは、縁側から庭園を眺めさせているのと同じです。そのようなコピーでは、お客様の心に響きませんし、購買意欲も湧きません。
 
コピーライティングで大切なことは、伝えられる情報の中から、お客様が知りたい情報だけを切り取り「生けどる」ことです。そうすることで、興味を持って読まれ、購買意欲も湧かせることができます。
人を魅了する日本庭園も、人を魅了するコピーも、本質は同じなのです。

【日本の窓から学ぶコピーライティング】   「窓」は「間戸」が語源です。 日本庭園は、縁側から眺めるのではなく、部屋から間戸越しに眺めるものです。部屋から眺める景色は、まるで一枚の絵のように映ります。間戸が額縁の役割をはたしているのです。 ...

Posted by 中小企業活性化プロジェクト on Thursday, November 1, 2012


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