ともえ夕夏さまの歌より

消しゴムのケースをはずすやうにしてまだ真っ白な吾に驚け

(ネットプリント「羅曼-L`Amant- Vol3」連作「十七而従心所欲」より一首)

 結句の「吾に驚け」にしっかり焦点が定まっている、いい歌だなと思います。この直球を相手にぶつける情熱的な誘いはもちろん、主体が選んだ唯一無二の相手に、存在の全てをぶつけるべく為されたのものでしょう。「真っ白な」部分をみせようとするのは、余程心を許したときであり、またしっかりと自分に向き合って欲しい、自分だけに向き合って欲しい、そんな強い思いを感じます。

 下の句の直球に対して、上の句は二つの仕方でイメージを広げる役割を果たしているようにみえます。一つは下の句の「真っ白」と呼応した消しゴムの比喩です。真新しいものでも、ある程度使ったものでも、ケースの下側にはまだ人に触れていない領域が消しゴムにはあります。ゴムの素材の柔らかさや手触り、においとも相俟ってそれは、衣服に隠された身体の記憶を、五感に訴えて呼び起こしてくれます。「はずす」のひらがな表記に、脱がすときのやさしさ、それを求めることができる信頼も現れている気がします。もう一つは「やうにして」という古風な言い回しです。古さが慎ましさをイメージさせるといえば、あまりに型にはまった連想かもしれません。ただ、選ばれた現代的な語彙と、文語表現との組み合わせは、服装は現代的で心は気品あふれる、そんな在り方を感じさせてくれます。

 相手を心から信頼でき、なおかつ激しい情熱をぶつけて交換しあうことができる。そんな恋愛はそう起こるものではありません。だから奇跡の瞬間を切り取ったこの歌が尊いもののように思えるのです。いま起こっていなくても、この先の時間で、信頼しあい心が通いあう、そんな心の状態がいずれ訪れたときに、相手を人として愛することができる。それを可能にさせてくれる歌だと私は思うのです。

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