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『ベルリンは晴れているか』小ネタ集

作者の深緑野分です。

『ベルリンは晴れているか』、おかげさまで7刷とあいなりまして、大変ありがたく思っています。読者のみなさまのおかげです。

で、何かこう、ちょっとしたサービス的なものはできないかしらんと考えたところ、小ネタがいいんじゃないの……?と思いつきまして。

本作には、本筋とはあんまり(というかほとんど)関係ないけれど、ここのこういうものを使ってるよ、この人の名前をつけたよ、実はちょっと遊んでみた、みたいなものが結構あります。

以下、そんな感じの小ネタを書いていきますので、苦手な方や未読でいかなるネタバレも避けたい!という方は今のうちに逃げてください。Ausgangはどっちだ!!どこでもいいぞ!!


さてよろしいでしょうか。

でははじめます小ネタ集。

・登場人物の名前

まず主人公のアウグステの名前の由来です。参考資料のひとつであるロジャー・ムーアハウス『戦時下のベルリン 空襲と窮乏の生活1939-45』に名前が登場する労働者で、迫害された人を助けた人物からとっています。男性なのでアウグストだったのを、女性名のアウグステに変えています。姓のニッケルもこの本から、労働者の名前として取ってきました。

続いてアウグステの父デートレフは、優れた社会学者にもかかわらず39歳という若さで亡くなってしまったデートレフ・ポイカートから。『ナチス・ドイツ ある近代の社会史』は1982年に本国で刊行された本ですが、今読んでもはっとさせられる名著だと思います。
ちなみにお母さんのマリアは、最初はアウグステに付ける予定だった名前です。由来は特にないんですけど、よくある名前の一つだからこそいいなあと。

カフカはまあ本書を読んで頂くとして、次はドブリギン大尉です。彼はNKVD(エヌカーヴェーデーと読みます。ロシア語だとНКВДと表記します)の職員なのですが、資料には「保安大尉」と「大尉」という表記の両方があり、ソ連に詳しいみなさまに色々教えて頂いて、「保安」をなくして「大尉」だけにしました。たぶん正式には保安大尉なんですけども日本語訳する時は省略することが多いとか。(間違ってたらごめんなさい)
で、名前の由来はグリゴリー・ドブリギンというロシアの俳優さんから。
彼はですねー、『ブラック・シー』や『誰よりも狙われた男』などに出ています。素敵な方です。印象に残る名前なので使いました。

ベスパールイ下級軍曹(これも同じく保安をトルしました)は、「兵士たちとの対話」・サイトはこちら 
という、実在した元兵士たちのインタビューを翻訳したサイトの、ウクライナ出身者から取りました。創作における名付けは悩ましく、特に海外で、地方色が強かったり階級差があったりすると難しくなります。尊敬する有識者の方に教えていただいたサイトで、ウクライナの貧しい農家出身の素朴な青年はどんな姓だったのかなという点で大変助かりました……キャラの人格形成の参考としても。

ヴィルマとエリ。
動物園飼育員コンビです。実は本作の登場人物名で一番遊んでいるのはこのふたりだったりします。この元ネタわかる方……いらっしゃいますでしょうか……

実はこれはミヒャエル・エンデ『サーカス物語』のヴィルマとエリから取っています。意味があるかというとそんなにないのだけれど、『サーカス物語』も排斥の話であり、子どもの頃何度も読んだ本の一冊なので。
ちなみに動物園の下りはフィクションらしく誇張も含まれますが、ハシビロコウを自宅の洗面所で保護している飼育員の写真が残ってたりするので、あながち遠くないと思います。ワニはむしろ飢えた飼育員が食べたそうです。

ヴァルター、ハンス、ジギ
この三人もとあるフィクション作品から拝借しています。
映画『橋』です。終戦直前に徴兵されてしまう子どもたちを描いた映画で、橋を守る作戦につくことになります。よかったらぜひ。

ちなみにアメリカ軍の伍長と軍曹の名前は考えてません!(←よくある)

・その他の小ネタ

時々タイトルについて聞かれますが、ええ、そうです、元はナチス・ドイツがパリから敗退する際にヒトラーが言ったとされる「パリは燃えているか」からです。最初はもっと仰々しい、報復とか鉄槌みたいなタイトルを考えてたんですが、何か違うなあと思っていたところ、朝ふと目が覚めた時に降ってきて、これでいいじゃん!と。

『エーミールと探偵たち』はまあ本を読んで頂ければ。ちなみに私は『点子ちゃんとアントン』も大好きです。
実は『エーミールと探偵たち』の登場を決めたのは結構後の方でした。最初はアウグステを占い好きの少女にしたり、形見のタロットカードを持ってたりして、本や物語といったものは影も形もなかったです。だけどアウグステのこの時代にしては優秀な語学力をどう養おうかと考えて、やはり本が必要→当時でも英訳が出ているドイツの作品→児童書で→禁書対象の作家だと尚良い、と考えていった結果、ケストナーの『エーミールと探偵たち』に。ベルリンが舞台になるし子どもたちが活躍するし、誂えたように登場してくれて良かったと思います。

それからものすごい小さい小ネタなんですが、幕間でちょいちょい出てくる「楓蚕蛾書店」、これは「クジャクヤママユ書店」ともいえますです。つまりヘルマン・ヘッセの「少年の日の思い出」から来ています。

ブリギッテ二号にはモデルがいるんですけど、ウィリアム・ピーター・ブラッディ『ディミター』に、ほんのちょっと、まじでわずかな行数だけ登場するキャラクターで、なんか強烈に印象に残っていました。


……という感じでした。

マジでしょぼい小ネタ集ですみません。何かまた思い出したらまた書きます!


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