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1万円を稼ぐって大変なんだよ

クラウドファンディング(Makuake)で、日本酒のオリジナルブランド「HINEMOS」を開始してから、5分ほど経ったとき、面識のない方が購入して下さいました。

とても嬉しい気持ちと「ここまで長かったな・・・」という感情とともに、タイトルの「1万円を稼ぐって大変なんだよ」という言葉を思い出しました。

6年前、リクルートという会社で働きながら、先輩が経営するベンチャー起業のお手伝いをしていました。高級旅館のメディアを立ち上げたばかりで、当時は従業員が7人でした。

リクルートでは、ネット広告を扱う事業部にいたので、まずはそのメディアの集客を担当しました。リスティング広告やディスプレイ広告の設計・運用です。

当時、そのメディアは、会員登録数をKPIに置いていて、フェイスブックが日本に上陸して間もないタイミングだったので、SNSマーケティングをメインに広告出稿していました。

まだ、フェイスブックを利用する会社が少なく、安価なコストで会員数を増やすことができていました。広告チャネルを増やすことで、もっと会員数をグロースしよう、ということで、「高級旅館 箱根」といったキーワードで、リスティング広告を開始しました。

ですが、そこには多くの競合も出稿しており、CPA(1人のユーザーを獲得するためのコスト)は数千円になりました。フェイスブックが数百円で会員数を獲得できていたので、何倍もの価格で獲得することになり、費用対効果がとても悪く見えました。

そして、開始してまもなく、広告費が1万円に達する頃、「ゆうた、止めよう、費用対効果が悪すぎる」と言われました。僕は、「もうちょっと検証しませんか?これから(CPAが)下がっていくかもしれません」と返しましたが、「1万円を稼ぐって本当に大変なんだよ」と本気な顔で言われたので、ストップしたことを覚えています。

正直、半分は「もっと検証しないと何も分からないじゃん、びびりだなぁ・・」という気持ちと、一方で「自分には分からないベンチャー経営の苦労があるんだろうな・・」という両方の気持ちがありました。

リクルートでは、ネット広告の営業で、数千万、数億円の受注があり、また、メディアも運営していたので、数億円を他社の広告代理店に発注することはよくありました。そういう状況に慣れていたので、前者のような気持ちが生まれたのだと思います。

1万円を稼ぐって大変なんだよ」この言葉を今でも覚えているのは、きっと何かしらの言葉の重たさを感じていたのだと思います。

いま、自分がベンチャー経営者として、日々を過ごしていると、その言葉を毎日のように思い出します。

資金繰り

会社法では、代表取締役はあくまで、法人に雇われているという前提があり、会社は自分のものではありません。なので、論理的にも法人口座と個人口座は別です。

ですが、資金の多くを自己資金で賄っていること、また、日々の経費などの振込を自分で行っていると、どうしても法人口座が自分の口座のような錯覚に陥ります。今まで、家や車を買ったこともなく、高額な買い物をした記憶がほとんどありません。一方でいま、瓶やパッケージといった原材料の仕入のために、百万円単位での振込が当たり前のようにあります。

この前、地元のさがみ信用金庫に、キャップとキャップシールをお願いしている会社へ90万円を振込に行きました。そのときまでで、1番の大きな額です。小売という業種は、どうしても先に原材料を仕入れ、後から売上が立ってくるモデルなので、この先行投資は避けられません。

いよいよ近くの店舗のATMで、画面を前に振込ボタンを押すときに、びびってしまって、一度店舗の外に出ました。「本当に大丈夫か、ちゃんと考えてないことはないか・・」と自問自答しました。発注する会社に再度、条件を確認してから店舗に入り、覚悟を決めて振込みました。

翻って6年前、広告代理店に1億円の発注をするとき、オフィスでは、「オプトにする?サイバーエージェントの方がいいんじゃない?」といった会話をして、発注先を決め、そして、経理担当に請求書を渡し、それからリクルート全社のキャッシュを扱う部署から、先方へ自動振込が行われていました。

関係する人に、悲壮感や焦燥感を持っている人はほとんどいなかったと思います。これは、よい悪いではなく、どちらかといえば健全です。会社に利益があり、経理担当がいて分業化されており、組織化されているから成し得ることです。僕らも売上と利益が立ってくれば、経理の方を雇い、分業化を進めて、個人が得意なことにフォーカスしていきたいと思っています。なのでそういった気持ちはフェーズによる、というあたりまえなことです。

こういう気持ちは(組織が大きくなっていく前提で)、創業期の今しか感じることができない感情なのかもしれません。ある意味、貴重な経験とも言えます。自分へも少し役員報酬を払っていますが、法人口座のキャッシュが減るだけなので、むしろ嬉しくないのです。なので、法人からすると、たった1万円という金額でさえも、いつも身銭を切っている感覚を覚えるのです。それがベンチャーの立ち上げ期の現実なのでしょう。


プロセスは表に出ない

リクルートを卒業したとき、何名かの方から、営業やコンサルティングのお話を有り難いことに頂きました。とても嬉しく、感謝の気持ちでいっぱいでした。いままでの延長線上の仕事であれば、依頼を請け負った月から収入はあったでしょう。ですが、前回の記事で書いたように、いままでの延長線上に未来はない、と捉えていたため、丁重にお断りしました。覚悟を決めて、無給で酒蔵へ入りました。

日本酒は微生物をあつかうので、温度の低い時間帯にお酒を仕込む必要があり、朝はとても早いです。土日祝日関係なく、毎朝4時台に起きて、6時から仕込みをスタートします。夕方5時に終わり、そこから都内で、デザインやマーケティングの打ち合わせをするので、どうしても夜が遅くなります。最初の1ヶ月が経つ頃、過労で倒れてしまいました。

また、釜場(かまば)といわれるお米を蒸す工程では、手を出してはいけないところで出してしまい、後々に跡が残ってしまう火傷を腕に負ってしまいました。

そういった目に見えないプロセスは、基本は表に出ないものです。お手伝いしていたベンチャー経営者は、創業から1年半後に、そのメディアを立ち上げています。きっと、さまざまな葛藤や迷いを経て、ようやく辿り着いた勝ち筋だったのだと思います。わたしはそこに至るまでのプロセスを知りません。

ですので、当時のわたしは、いち集客担当として、1万円かけて、いくらのCPAで、何件の会員数を獲得する、といった、その瞬間しか思いが至っていません。

いま、プロダクト、デザイン、パッケージ、文章、写真、ひとつひとつに対して、どれだけの時間と想いが込められているのか、ここに辿り着くまでの4年の葛藤と半年間の苦闘を経て、ようやく思いを至らせることができます。その視線を、「経営者目線」と表現するのかもしれません。

いまなら、あのときの先輩経営者にかけられた「1万円稼ぐって大変なんだよ」という言葉の重みが分かります。

わたしは、短い期間しかお手伝いできていませんが、その先輩の会社のメディアは、いまではGMV(総流通総額)は数百億円に登り(詳細は知りませんが)、従業員数は200人ほどに成長しています。目標とする会社のひとつです。

今度、もし1万円の重みが分かっていない一緒に働く若手がいたら、「1万円を稼ぐって大変なんだよ」と言って、そっと、この記事のURLを送ろうと思います。

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