日本酒ベンチャーのリアルな悶絶

いよいよ日本酒ブランド「HINEMOS」の完成が近づいてきました。一方、この1ヶ月くらい、もがき苦しんでおり、なんとなく、その悶絶を共有したくて書いています。

戦略うんぬんでなく、日々のリアルの共有です。

ふだん勃発している悶絶から、トップスリーの3つをピックアップしてお伝えできればとおもいます。

悶絶① 資材の色味が揃わない

日本酒の会社を起業して、最初のプロダクトをリリースするまで、いちばん苦労するであろうことは、何だと思われますか?

わたしは、やはりお酒の味をどう決めるか、という部分だと想定していました。ふたつ目は、ブランドをどう構築するかというブランディングの部分です。とても時間がかかりそうです。

ですが、人に恵まれたこともあり、そのふたつの大枠の方向性は昨年の10月24日から酒蔵に入って、12月には酒質もブランドも決まっていました。2ヶ月かかっていないと思います。(日々ブラッシュアップはしています)

もっとも時間がかかったのは、瓶、キャップ、キャップシール、パッケージといった資材を揃える部分でした。

もっと具体的にいうと、われわれは赤色のお酒をはじめにリリースしますが、

その「」という「色味」の「発色
①お酒、②瓶、③キャップ、④キャップシール
の4つでバランスを揃える

という部分にめちゃめちゃ時間がかかりました。

左上からキャップ、真ん中が瓶、右がキャップシールです。キャップシールとは、ワインなどのキャップのまわりについてる、ぺりぺりって剥がす、あれです。あれをつけると少しオシャレになるのです。これはそれぞれの色のバランスを確かめる色校正というプロセスです。

これをみると、写真上では、3つの赤の色味がそこまで違うようには見えないじゃないですか。アートディレクターに写真を送っても、「違いがわからない」と返ってきました。これはカメラの解像度の限界で、iPhone X MAXでも色は再現できていません。

違いがわかるように右上に人間の視覚でみえる色をキャプチャでつけました。

真ん中の瓶はたとえがあれですが、血の色に近いです。そして、右のキャップシールは鮮やかなピンク(マゼンタといいます)です。左のキャップはその真ん中くらい。

つまり、このまま瓶やキャップシールをつくると、血の色をした瓶に、派手なピンクのキャップシールという素晴らしいアンバランスな瓶の日本酒ができあがってしまいます。

そういう色の違いが出ないように、世界にはPANTONEという色の基準があります。人によって、これは赤、これはピンクとか変わってしまうと大変なので、この色は206Cです。といった基準が世界的に決まっているのですね。

ですので、われわれはこの色でいこう、とPANTONEを決めて、それを入稿しているわけです。瓶、キャップ、キャップシールの会社は3社それぞれ違います。

ですが、とても信頼を置いているキャップ会社のKさんに商社として間に入っていただいており、こういった情報をまとめています。なので入稿フローとしてはスムーズです。

ですが、はじめの色見本が送られてきて、

わたし「なんで・・・色が・・・ここまでバラバラなんですか・・・!?PANTONEも指定したのに・・・!?」

Kさん「お伝えしたとおり、キャップシールはPANTONEを指定できるのですが、瓶はガラス、キャップはメタルという素材で、発色可能なインクが限られます。ですので、担当者が、指定したPANTONEにいちばん近い色を選んでつくっています。」

わたし「それは聞いていましたが、ここまで色違うものです?みてください。瓶とキャップシールの色の違いを。担当者が指定したPANTONEに近い色を選んだはずなのに、ここまで色が違ってくるものですか?どす黒い赤ショッキングピンクですよ!?」

Kさん「・・・・」

わたし「工場は茨城ですよね?わたしが行って色を選びますので、社長とのアポの調整をおねがいします!」

後日---

わたし「社長、発色可能な色の種類をみせてください」

瓶の社長「こちらです」

わたし「おぉ、たくさん種類あるじゃないですか!あれ、ピンクはどちらですか!?」(右上がマゼンタ。キャップシールはこの色)(写真の赤は、ほとんどマットな赤色)

瓶の社長「いえ、そもそも2色しか発色できず、「白」と「赤」と「青」を混ぜる必要がある混合色のマゼンタは、瓶のガラスという素材に対しては発色できません」

わたし「えっ・・・!」
(そんな大切な事実を・・・いまさら・・・このタイミングで・・・!?)

Kさん「・・・」(Kさんもはじめて知る)
(口が空いて、あんぐり)

アートディレクターK「・・・」(ここで知るんかい!という顔してる)

瓶の社長「そもそも、こういったマゼンタカラーで日本酒の瓶つくる会社ありませんからね(笑)」(ニコニコ)

わたし「・・・」(青ざめて目が飛び出る)

社長が選んだ色はその中ではベストなものでした。

12月から資材を調達しはじめて、既に1月半ば。瓶、キャップ、キャップシールの色校正まで2週間かかり、そして色を確認して発注してから、完成まで4週間かかります。

1月にクラウドファンディング開始の予定は、ここで崩れ落ちました。サンプル撮影すら間に合いません。

ここからもドラマはたくさん起こりましたが、長くなるので、割愛します。

ポイントとしては、そもそも酒づくり前に資材を揃えておくべき。なのですが、それはムリだったので、資材は瓶からスタートし、発色できる色味を先に選んだ上で、そこから似た色のPANTONEをキャップとキャップシールに展開する、が正しいフローでした。

資材の色が・・・揃わない!

はここまで。

悶絶② 中心線がズレている

次にパッケージです。「HINEMOS」では、日本酒では非常にめずらしいパッケージをつかっています。ふつうは四角い箱のイメージだと思いますが、新規参入にとって、既存と同じことをするわけにはいくまい、とウィスキーなどに使われる円筒パッケージを採用しました。

デメリットは、四角い箱に比べてコストが3倍すること、また四角い箱は折りたたんで運べるのですが、円筒はたためないので、場所のスペースを取るということです。その分だけ在庫のスペースも必要になります。

この写真の奥のスペース全部です。パッケージ50個入りのダンボールが120箱あります。めちゃめちゃ場所とっています。

しかし、メリットは非常に珍しいということもあり、ギフトにも最適ですし、何よりクールでオシャレです(と思っています)。

そんなパッケージが、サンプルの確認を経て、はじめの2,000本が到着しました。

サンプルでは、まったく問題なかったので、あまり心配していなかったです。念のため、1箱分だけ、1本1本検品していきます。

わたし「・・・円が・・・ズ・ズレとる・・・!」(左の写真)

円筒の上の部分を天面といいますが、天面に対して、時計のデザインの中心線が左上にズレています。左上にはあまりスペースがなく、右下に広いスペースがあります。サンプルは右側でクラウドファンディング用に撮影したズレていないものです。そのズレが10本に1本くらいの割合で起きていました。

わたし「・・・なんで・・・こんなことが・・・起こるんだ・・・!?」

すぐさま担当者のWさんに電話しました。

わたし「Wさん!円がズレています・・・!」

Wさん「は?」(なにいってるんだこの人は)

わたし「天面の時計のデザインの円の中心線が、まん中でなく左右にズレています!写真送りますので、原因を調べてください!」

わたしの中では、円のスペースいっぱいに時計のデザインが施してあるので、箔(はく)をおす(スタンプみたいなやつ)ときにもあまり、ズレるイメージがなかったのです。

しかし、箔は、平らな紙の上で、事前におしておいて、その後に円筒にその紙を巻きつけるという、フローのようでした。

つまり、箔をおすときでなく、巻きつけるときに起こった人為的なミスということでした。

われわれの日本酒は、一般的な価格帯より少し高めに設定していることもあり、こういったズレは許されません、ということで、ズレているものはすべて修正をおねがいしました。

実際はさらにひと悶着ありましたが・・・割愛します。

中心線が・・・ズレとる!

でした。

悶絶③ スハークリング事件

この悶絶というか阿鼻叫喚に比べたら、はじめの2つはかわいいものです。3月6日に、2銘柄の瓶、それぞれ1,000本が届きました。

どんどん完成に近づいて、気持ちは高揚していました。Slackというチャットツールで、「完璧!」とつぶやいています。「ここで何かあってももう間に合わない」とも書いています。

こちらも既にサンプルでは、瓶も確認していたので、あまり心配していなかったです。ひとつのダンボールをあけ、瓶の光沢感や間違ってはいけない製造年月が、2019年3月になっているのを確認し、サンプルのとき、住所が足柄→足軽になっていた部分も、修正されていることを確認しました。

「よし、キャップ、パッケージ、瓶が揃って、後はキャップシールだけだ!」と安堵していました。

そして、3月6日から、6日後の3月12日。
杜氏(とうじ=酒造責任者)の湯浅さんから、ピコンとLINEが届きました。

わたし「・・・な・ん・だ・っ・て・・・!?」

「スパークリング」が「スハークリング」になっていました。「パ」の丸がとれて、「ハ」になっていたのです。片方の銘柄1,000本全部です。「パ」が「ハ」になってるなんて、露にもおもわず、見落としていました。

「・・・な・・・ん・・・で・・・こんなことが起きるんだ・・・!?」

本当にパニクってしまいました。
よくよくLINEをみると、湯浅さんへの返信まで、12分の間が空いています。この間、わたしは小田原駅のタリーズで、パニクっていました。わたしは焦ると左手で、前髪を掴むクセがあるのを妻に指摘されていますが、12分間、その体勢で固まっていたと思います。

「パ」が「ハ」になっていたことで、何が起きるか、全てに責任をもっている経営者として、あたまの中で、怒涛のように、これから先が駆け巡りました。

頭のなかの回想---

「ここから、再度、瓶の発注をかけてから瓶が届くまで5週間。そこから、お酒を詰めて、発送するまで、クラウドファンディングで記載している4月中の発送に間に合うのか・・・?」(そもそも4月1日に発送予定だった)
「そもそも明日3月13日に瓶詰めするはずだったスパークリングの醪(もろみ)はムダになり、5週間後まで、酵母はもたない。そもそも5週間後の4月中旬の気温で、お酒はつくれるのか・・・・?」
「入稿ミスで、われわれの過失だった場合、瓶の発注コストが再度かかる。また、ムダになったお酒も当然、井上酒造から買い取る必要がある。労務費や酒米などの原材料費は既にかかってしまっている。つまり、倍のコストが発生する。いくらになる?手元のキャッシュは・・・どうなる・・・?」
「そもそも3月6日時点で、気づいていれば・・・。発見してもらった蔵人の内山さんが気づかなければ、かなりの確率でそのまま発送していた可能性が高い。数百人のカスタマーから、「スハークリングになってます!」とかご連絡いただいたら・・・もはや・・・」
まず、いまやるべきことは・・・(あたま真っ白)

回想12分間つづく---

すぐに担当者のKさんに連絡しました。

わたし「Kさん、スハークリングになってます!!」

Kさん「は?」(なにいってるんだこの人は)

わたし「7時(銘柄の名前)の瓶の裏に「純米スパークリング」という文字がありますよね?あの「スパークリング」の「パ」の丸がとれて「スハークリング」になってます!!」

Kさん「えっ・・・」(絶句)

Kさん「1本でなく、全部ですか?」(わたしのはじめの質問とおなじ。みんな1本だけのミスで合ってほしいのだ)

わたし「全部です!」

わたし「われわれが最終入稿した12月26日のデータは「スパークリング」になっていることを確認しています。Kさんのほうでも原因究明と今後の打ち手を考えてもらえますか・・・!?」

悶絶つづく---

原因は、かなり細かいのですが、われわれはさまざまな理由で、紙のラベルでなく、瓶にダイレクトに発色させるプリント瓶という手法をとっています。

瓶に発色させるので、あまりに細かい線だと色が乗りません。その文字の細さの基準は、0.2mm以上です。

また、問題がなかったサンプルは、茨城の工場でなく、都内のオフィスのサンプル製造機でつくっていました。そして大量生産のとき、工場で行うというフローです。

なんと、サンプル製造機は、0.1mmでも発色できてしまうのです。今回、スパークリングの「パ」の丸だけ、0.1mmで、それ以外の文字は、0.2mm以上だったということです。

そのせいで、工場の発色のときに「パ」の丸が飛んで「スハークリング」になったということでした。

「スハークリング事件」

わたしは生涯忘れず、ネタに使うでしょう。

そして、ついに・・・

結論からいうと、資材の色味パッケージの中心線スハークリングも、みなさまの創意工夫で、双方に大きな損害、補填もなく、スケジュールだけは少し遅れますが、クラウドファンディングで支援いただいた方々には、4月1週目から2週目にかけて、発送できる予定で動いています。

そして、ついに3月13日。

全ての資材がそろって、サンプルでない最初の銘柄

0時(REIJI)

が完成しました。

お酒の味は最高です。わたしの生涯でいちばん美味しい日本酒というかお酒です。そして色は信じられないくらいキレイなロゼ色です(黒米の色のみです)。そして、お酒、瓶、キャップ、キャップシールの色のバランスも完璧です。

この写真を撮ったときが、おそらく社会人になって、いちばん気持ちが高揚して、昂ぶっていたとおもいます。

7ヶ月前の8月2日、とりあえず平塚の法務局で法人登記して、創業しました。妻は都内に仕事へ、わたしは息子を保育園へ送り、自宅オフィスという名のマンションで、ひとり机に座っていました。

「さて、ここからどうする・・・」

誰にも何もいわれない、与えられない、ことは、最高の自由とともに、ある意味では、孤独で残酷だとおもいます。道がないからです。

とりあえず、アマゾンで注文していた日本酒の本をパラパラめくりはじめました。

あれから、7ヶ月。「ゼロからここまできたぞ!」というきもちと、

まじで、モノづくりって最高だなーーー!やべーーー!超楽しいじゃんーーー!

という気持ちでいっぱいでした。いままで、何かアウトプットといえば、資料であったり、Webサイトといった無形のものが、ほとんどでした。

それが手にとれる有形なモノづくりの達成感たるや、感じたことがないものだったのです。

宇宙兄弟が、いちばん好きな漫画なのですが、その9巻のなかに、「日々人」が月に到着して、嬉しすぎて、うさぎみたいに飛び跳ねるシーンがあるじゃないですか。

あの気持ちだったと思います。ドキドキワクワクが止まりませんでした。あっちは月で、こっちは日本酒ではありますが。

ようやく、もうすぐお披露目できそうです。

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酒井優太 / HINEMOS

ライスワインという日本酒のベンチャーを経営しています。「HINEMOS」という日本酒ブランドを展開しています。https://hinemos.tokyo ツイッターは、@Yuta_Fukanoki

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