ユキちゃんと裏ビデオ

小学校の時、同級生にユキちゃんという女の子がいた。

休み時間にはチェッカーズや中森明菜の話で盛り上がり、月星のジャガーシグマを履きこなす私たちの中で、ただ一人、シンディーローパーやマドンナを聴き、リーボックを愛す、かなり大人びた子だった。

当然、彼女はクラスで浮いた存在で、誰も近寄らず、中には「気取ちゃってバカみたい」と露骨に悪口を言う子もいたが、私はそんな彼女に畏敬にも似た気持ちを抱いていた。

ある日の夕方、ユキちゃんが近所の公園で犬の散歩をしているのを見た。ペット禁止の家庭で育った私は、犬を連れて歩くことに異様なまでの憧れを抱いていたので、思い切って彼女に話し掛けてみた。

「犬、かわいいね。私、死ぬまでに一度でいいから犬の散歩をしたいと思ってるんだけど、もし差支えなかったらその紐を持たせていただけないかな?」

大真面目な顔で懇願する私の顔を見て、ユキちゃんは吹き出した。

「あなたって変わってるね。いいよ。この子、ミルキィっていうんだ」

ウェーブのかかかった綺麗な栗色の髪をかきあげながらリードを渡すユキちゃんの笑顔を見て、胸がドキドキした。

その日を境に、私たちは仲良くなった。

話せば話すほど、ユキちゃんは本当に大人のようだった。

色違いの浴衣を買って一緒に楽しみにしていたお祭りの直前に足を折り、落ち込む私に諭してくれた言葉は今でも鮮明に覚えている。

「残念だけど、これは、はじめから決まってたことだから仕方ないよ。すべては生まれた時に決まってるの。運命は変えられないから、いいことも悪いことも全部飲み込まなくちゃいけないし、それに抗うのは無駄だよ」

ある日の学校の帰り道、ユキちゃんが「今日、ウチに来ない?面白いものを見つけたんだ」と誘って来た。ユキちゃんが「面白い」というものだから、それはそれは面白いものだろうし、なにより、ユキちゃんのおウチに入れるのが嬉しくて、「うん!絶対行く!」と全力で答えた。

それがその後の私の人生に大きく影響することになろうとは、夢にも思っていなかった。

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