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フリー雀荘ビジネスが抱える巨大な時限爆弾 従業員が経営者を訴えると必ず勝てるとは?


今回は匿名条件の方から寄稿していただいた文章になります。

前置きが長いので前半は読み飛ばし推奨です。そして後半の内容はすごいです。著者が経験豊富で事例がかなり具体的です。これ本当に載せていいのかよ?って内容でした。

以下は寄稿していただいた文章です↓
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全国に5000人?のフリー雀荘メンバー

今では超有名なトッププロでも、ほとんどが通って来た道、それがフリー雀荘のメンバーだ。果たしてこのフリー雀荘のメンバー、今現在どのぐらいいるのだろう。

「令和3年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯の取締り状況等について」(警察庁生活安全局保安課/令和4年4月)

公的な統計によると、日本国内の雀荘の数は令和3年時点で7312軒。

雀荘検索サイトの「フリー」条件検索でヒットする件数で言えば、「麻雀王国」では2,781・「雀サクッ」では1,738となっているが、加盟店(有料掲載店)がそれぞれ902店・639店となっており、おそらく加盟店以外は営業形態の追跡を完璧にはやっていないのではないか。またそもそも実質閉業しても閉業届を出さない経営者もいるとも聞く。統計自体がすべてを完璧に把握できていない可能性も高そうだ。

そうなると、実際営業を行っている雀荘が4,000~6,000軒、このうち本当の意味でのフリー営業(誰もが訪れてすぐに対局を行える)を行っている店舗はおそらく1,000軒程度ということになりそうだ。そして現状は、そのうち9割以上がオンレート営業をやっていると思われる(各検索サイトでの「ノーレート」キーワード検索では、フリー全体の1割以下しかヒットしない)。

フリー雀荘では、お客を待たせないために、4人打ちならば最低3人、3人打ちでも最低2人はメンバー(従業員)が必要となる。シフトで半分ずつ埋めるとすれば単純計算で所属メンバーは各店舗数の2倍か、それより多いことになる。

つまり現在進行形でフリー雀荘で働く人は全国に数千人以上はいそうだが、数万人はいなさそう。小規模店ではオーナーが常駐することも少なくないとすれば、雇われのフリー雀荘のメンバーは5000人程度、あるいはそれ以下かもしれない。

お金を賭けて麻雀するから長続きしない

そんな5,000人のフリー雀荘メンバーだが、同じ店舗でずっと働き続けている人はさらに少ない。というのも、(オンレート)フリー雀荘のメンバーはオンレートの麻雀を打つしかなく、その収支が自分持ちになるからである。

「え? フリー雀荘ってお金を賭けてもいいんですか?」という疑問はいったん置いといて、フリー雀荘のメンバーの仕事のメインは、お金を賭けて(ほとんどの場合は自腹で)麻雀を打つことと言っても過言ではないだろう。

もちろん、接客や飲食物のサーブや店内や麻雀卓・牌の清掃などの業務もあるが、来店するお客さんのほぼ唯一にして最大の目的が「お金を賭けて麻雀をすること」なのだから、それに応えることが極めて大きな比率を占めているのは間違いない。そして賭け麻雀の収支をお店側が持ってくれる比率は限りなくゼロに近い。

つまり一言で言えば、自腹でお金を賭けて麻雀することを生業にしているのがフリー雀荘のメンバーなのだ。そんなもん、仕事として成り立っていない。そりゃ長続きしないよね、という話である。

報酬の相場は?

さて、そんなフリー雀荘のメンバーだが、どのぐらいの報酬を貰っているのだろう。

東京の最低時給は1,113円だが、フリー雀荘の求人をネットで検索して見ると、1,113円、1,117円、1,200円といったギリギリ最低時給を超えているレベルのものが多く、中には1,800円の店舗もあるが補足として「1,300~1,800円研修期間あり」との付記があったりする。おや、日給表記の求人の中身を見ると、時給1,100円という違法な文面の掲載も…?

大阪の最低時給は1,064円だが、求人ページの更新の問題なのか、雀荘業界の遵法意識の問題なのか、時給1,050円~、1,025円~、1,000円~という違法な文面が目白押し。とある雀荘検索サイトにわざわざ求人バナーが出ている雀荘に、なんと時給900円~とある。ちょっと酷い状況だ。

いずれにしても各地域の最低時給ギリギリか最低時給+α(ごくわずか)というのが相場なのだろう。情弱経営者が情弱バイトを雇う状況では、本当に求人ページの記載通り、最低時給以下での雇用もあるのかもしれない。

そしてもう一つ。これが重要なのだが、雀荘メンバーが自腹でお金を賭けて麻雀する場合、ゲーム代も自分で出さなければいけない場合もある。

これに関してはお店によってそれぞれルールがあり、一部あるいは全部ゲーム代の補助があるのが普通である。いわゆるゲームバックと呼ばれるものだ。

①全額ゲームバック
②半額ゲームバック
③半額ゲームバック、月間規定本数クリアで全額ゲームバック
④ゲームバックなし

④はほとんどなく、東京は比較的①の比率が高いが、地方は②が多いイメージ。なお②はちょうど半額とは限らず、例えば500円のうち200円とか300円とか、一定比率の補助があるパターンもある。

また昨今のフリー雀荘はトップからプラス100円を徴収するトップ賞(という名のゲーム代割増負担)がある場合がほとんどで、これに関しては全額自己負担がほとんどとなる。

というわけで、フリー雀荘のメンバーの実質的な報酬は、以下の合算になる。

【時給(最低時給ギリギリ)×勤務時間数】-【ゲーム代(一部、全額ゲームバックの場合は0になる)】-【トップ賞×トップ回数】±【お金を賭けた麻雀の収支】

実際の収入

例えばある日、時給1,200円で10時間働いて、麻雀を半荘10回打って、テンピン(千点100円)でゲーム代600円のうち半額補助があり、麻雀の収支が▲60、1枚500円のご祝儀チップがマイナス5枚だったとしよう。トップ2回のトップ賞100円の支払いは自己負担だ。

(1,200×10)-(300×10)-(100×60)-(500×5)-(100×2)
=12,000-3,000-6,000-2,500-200
=300円

この日は深夜まで10時間働いて、100円玉3枚だけを握り締めて帰ることになる。

しかも、この例はひどい大敗というわけではない。マイナス60、チップマイナス5枚というのは、それぞれラス1回分、他家3人に差し引き1~2枚ずつ払った程度のマイナスにすぎない。つまり、300円もらうどころか半日働いて数万円払って帰る日もあるのだ。

もちろん負ける日ばかりではないので、逆に1日で数万円を掴み取る日もあるだろうし、ほとんどのお店が月払いでまとめて収支を差し引きするので、今日は300円しか稼いでない現実が可視化されることもないだろう。

とはいえ、ある日ふとその日単独の報酬を考えただけでバカバカしくなるタイミングが数多くある仕事であることは間違いない。そして月払いでもツイてない月の給料がマイナスになることもあり、嫌になる云々ではなく、物理的に生活できなくなる可能性もあるのだ。

12時間×週5で300時間働いて、34~35万円もらえるはずが、300回のゲーム代で7.5万円引かれて、さらに麻雀の収支(チップ込み)でマイナス30万円だったので、月トータルの報酬がマイナス3万円になった。

こんなことが全国5,000人のメンバーのなかで毎月数十人(もっとか?)の身には降り掛かっているのではないか。そうなると、翌月には飛んでしまうメンバーも、全国の数十人のうち数人はいるかもしれない。

ちょっと長くなったが、これがフリー雀荘メンバーが長続きしない理由である。

逆に言えば、メンバー業を長く続けられている人は麻雀が相当強い(麻雀の収支でマイナスにならない)人ということになる。

レアケースとして、実家が太い人、他に収入がある人や、また意外と何度も飛び続けて(前のお店でのマイナスを踏み倒して)いろんなお店を転々とする人もいるが…まあそれでも負け続けてお金も貰えない仕事を続けるのは精神的にかなり困難なので、やはりメンバー業を続けている人は麻雀が強い可能性がかなり高そうだ。

そしてこれが、福地先生が「オンレートフリー雀荘が強者選別のシステムとなっている」とする根拠だろう。

メンバーにとっての正当な報酬とは

強者以外はメンバーを続けられないのは、弱者だから。そう言ってしまうのは簡単だが、もう一度落ち着いて考えてみよう。前述の例を再掲する。

例えばある日、時給1,200円で10時間働いて、麻雀を半荘10回打って、テンピン(千点100円)でゲーム代600円のうち半額補助があり、麻雀の収支が▲60、1枚500円のご祝儀チップがマイナス5枚だった場合。トップ2回のトップ賞100円の支払いは自己負担。

(1,200×10)-(300×10)-(100×60)-(500×5)-(100×2)
=12,000-3,000-6,000-2,500-200
=300円

このうち、強者や弱者の区別なく共通の部分を抽出すると、

(1,200×10)-(300×10)=9,000円
この例だと、10時間働いて9,000円、すなわち時給900円ということになる。

そもそもゲーム代の自己負担がある限り、最低時給ギリギリからさらに減った額の時給、つまり実質違法の時給しか貰っていない。強者のみ、これにお金を賭けた麻雀の収支でプラスして世間並みの収入を得ているのだ。さらに言えばトップ賞は強者の方が多くなるので、勝てば勝つほど実質時給の部分は下がることになる。

こんなもん到底受け入れられたものじゃないが、それでも凌げてしまう強者がいるから、そして去っていく弱者の代わりも定期的に補充されるから、このシステムが維持され続けてきた。

言うまでもなく、最低限の正当な報酬はゲーム代の負担を差し引いても最低時給を超えること。そのうえで、麻雀の巧拙で報酬が増減することを承知して従事するならば、そこは自己責任ということになるだろう。

ただそれでも去っていく弱者は一定の比率で生まれるだろうから、お店の側から言えば、安定したスタッフ確保のためには一定比率あるいは一定額の負け分の補助も欲しいところ。
結局安定したスタッフを確保するための待遇を実現するには、今の雀荘のゲーム代(人件費の原資)は安すぎるのだろう。

しかし雀荘のお客さんのほとんどは麻雀をゲームやレジャーとしてよりギャンブルとして捉えており、ゲーム代込みでプラスになることを目指している。このためゲーム代の安さが集客と直結しており、雀荘の唯一の収入源であるゲーム代を値上げできない現状になっているのだろう。

そしてそれが、強者のみギリギリ凌げ、弱者は去っていくしかないメンバー事情、有り体に言えばメンバー使い捨ての状況に繋がっているのだ。

ある競技麻雀プロのおかしな収支管理

筆者の知人の麻雀プロに、自分の雀荘での収支や自分の実質時給をすべて記録している人がいる。仮に名前をN氏としよう。

N氏は知性や性格に関して常人とだいぶ異なる部分があるタイプなので、レアケースだとは思うのだが、なぜかこの記録の際にゲーム代補助の部分を収入の側に記録しているのだ。

前述の例ならばN氏解釈では
(1,200×10)+(300×10)=15,000円
時給は1,500円という数式になる。

麻雀を打つ本数が増えれば増えるほど時給が増えるという解釈で、件のN氏は「自分の能力では他に時給1,500円の仕事なんて探せないから、これは天職だ」と喜んでいた。

本来このような現物支給を収入として組み入れる手法は、社宅や社食の補助を実質給与だと換算するように、人間が生きて行くうえで欠かせない衣食住についてしか成立しない。つまりこのN氏の解釈は、「毎日麻雀を打たないと死ぬ」「常に麻雀を1回でも多くやりたい」病の人じゃないと成立しない方式だ。そういう意味では、仕事だけでなく趣味も余暇もすべて麻雀に捧げる、じつに麻雀プロらしい解釈と言えなくもない。

そしてじつはここにも、フリー雀荘メンバー使い捨てシステムが許され続けている理由が現れている。つまり、この現物支給が嬉しい人にとっては、ゲーム代補助を収入だと解釈することで、違法なほどに低い報酬をナチュラルに我慢することが可能となっているのだ。

例えばコンビニで週4働いて月12万円を得て、暇な週2日はフリー雀荘に行くのが最大の娯楽(ゲーム代を月4万円払っている)という人であれば、週6日雀荘で働いて8万円給料が残れば御の字、なんなら好きなことを仕事にできるぶんもっと安くても我慢できるという図式だ。とくに実家住まいのフリーターや親から仕送りを貰っている学生なら、我慢とさえ思わないだろう。

しかし現状、フリー雀荘業界は慢性的な人手不足に陥っているという。少子化で学生の人数が減り、また余暇の選択肢がオンラインを中心に増え続け、とにかく麻雀が打ちたい人にもネット麻雀が最高の環境を与えてくれるので、雀荘の現物支給の価値が相対的に下がっているのである。

昨今のフリー雀荘の賭博開帳図利罪での摘発も今後は拍車を掛けていきそうだ。

経営者を訴えると必ず勝てるとは?

前置きがめちゃくちゃ長くなった。ここからが本題となる。

これまで示してきたように、すべてのフリー雀荘メンバーは「本来貰うべき報酬を貰っていない」と言って良い状況なのである。つまり、この件についてメンバー側から正式に訴えられると、ほぼ必ず雀荘側が負けるのだ。

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