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【現代麻雀への道】64 戦前の最強者

技、神に入った小説家雀士

今、朝から晩まで麻雀漬けの人といえばまず学生だろう。しかしこれは大学進学率が45%にも達した現在のイメージであって、人口の数%しか大学に進まなかった時代には、学生は勉強をするものだった。

それでは、そんな時代に麻雀三昧だった人はというと、これが小説家なのである。昔の小説家といえば、酒や博打や女にふけることを文学修行と考えて、そういった経験を私小説に結実させるものだった。

昭和6年3月4日の東京朝日新聞に、こんな記事が掲載された。

マージャンのために多大な借金を背負い、東京を食いつめて田舎へ逃げたが、その田舎で、またもやマージャンにひっかかり、更に多大な借金の上塗りをやり、もうこの上は自殺をするか、上海へ逃亡するか、二つに一つというところまで、行きついている文士もいる。

文学修行とは名ばかり。麻雀にハマったとしかいいようのない小説家の姿が書かれている。この記事はこう続けられている。

またある文士は親の遺産をすっかり注ぎ込んで、ほとんど飢死線上にさまよっていたところを文壇各方面の同情で漸(ようや)くまとまって最後の印税が入った。この最後の印税をマージャンで使ってしまったというのだ。

これでは学費を麻雀で使ってしまい、ついには住む部屋までなくしてしまう学生と何も変わらない。だが麻雀狂いの小説家にもキラリと光る話はあったのだ。この記事にはこんな一節がつけ加えられている。

文士Kの如(ごと)きは、マージャンのために一ペン食えなくなって食えなくなってもまだやっていて、とうとう近頃では、技、神に入り、方々の講習会に講師をたのまれたりで一時よりは食えるようになったというからすごい。

この「技、神に入った」文士Kとは川崎備寛(びかん)のことだろう。戦前から戦後にかけて最強を認められ、麻雀界の頂点に君臨したのが川崎備寛だったのである。

※この文章だけ単品で100円で買えますが、このシリーズ39回(本1冊分)がマガジンで1000円となっています。

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