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【現代麻雀への道】61 1sの正体は?

1sの正体は伝説の鳥・鳳凰?

初めて麻雀したときに、多くの人は不思議に思うに違いない。なぜ1sには鳥が描かれているのだろう? この鳥はいったい何なのだろう?

麻雀の雑学を語るコーナーでよく見かけるのは、伝説の鳥である鳳凰が描かれているとする説。この説を唱える人は少なくないようで、麻雀プロの金子正輝さんは、鳳凰は麻雀の神様だから第一打では切らないという。

これは魅力的な説だが欠点もあって、というのはなぜ1sが風風の牌なのか説明されていないのだ。1sが鳳凰なら、1mには亀が、1pには麒麟がいてもおかしくないというのに。

じつは1sの鳥の正体を知るためには、麻雀の誕生以前までさかのぼる必要がある。

麻雀の母体となっているカードゲームには、すでにマンズ、ピンズ、ソーズが存在しており、1sは時期によって様々な形で描かれている。その進化の過程を見ていくと、1sがどんな形から出発して現在の姿までたどりついたのか、見ることができるのだ。

銭束(ぜにたば)から出発した1s進化論

ソーズの発祥は、穴あき貨幣に紐(ひも)を通して束ねたものだった。昔の貨幣は現在の五円玉のように中央に穴があいていたから、100枚くらいを紐で通して芋虫のような形にして持ち歩いた。1sはその芋虫が1本で、2sは2本。その芋虫の絵が単純化されてゆき、2s~9sでは棒状になったのだ。

ソーズは竹に似ているから、麻雀牌の素材だった竹と関連があるように思われているが、それは偶然にすぎない。

1sの場合は、芋虫が1本だけだから大きく描かれることになり、両端から紐がたれさがっている様子まで描き込まれた。そのために形が変化していったときにも単なる棒にならず、複雑な形になったのだ。

1sの芋虫はいろいろな形を経た後に、中国の南方では魚となり、北方では烏となった。

しかし魚タイプの1sはカードだけで、麻雀牌では見つかっていない。麻雀が誕生したとき、つまり麻雀がカードから牌になったときに、理由はわからないが魚タイプは消えてしまい、1sはすべて鳥となったのだ。

中国の古役には、5pを梅の花と見るものや、1pを月と見るものなど、風流な役がある。そういった古役のひとつとして、1sの鳥が出てきても不思議はない。それがないのは、この鳥が麻雀の伝統にそれほど深く根ざしてないからではなかろうか。

※五筒開花=5pを梅の花になぞらえて、リンシャンカイホウでこれをツモると、山の上に花が咲いたからマンガンとした。
※一筒摸月=1pを月になぞらえて、ハイテイで1pをツモると、海の底で月を拾ったからマンガンとした。

すなわち1sの鳥の種類を問うのは、都市伝説のようなものだろう。成り行き的に鳥になっただけで、どの種類の鳥なのか明確な設定もない。その種類を気にするのは、成り行き的に成立した「意味」を過剰に深堀りしているだけなのである。

今では世界中の麻雀牌で1sに鳥が描かれている。その種類は製造業者によって、鳳凰、クジャク、鶴、オウムなどバラバラになっている。

今から振り返って

結論としては、1sが麻雀の神様の鳳凰を表してると思うのは、麻雀の歴史に基づかない都市伝説的なやつだって話です。

これを書く少し前に、麻雀博物館会報ってやつで、遊戯史研究の大物・江橋崇先生が「1s進化論」っていうのを書いてました。これよりもずっと歴史的で実証的なやつを。

ぼくは歴史的に細かい事実はどうでもいいので、すごく概観的にまとめたのがこの回です。一般的には、このくらいの内容で十分じゃないかって思います。

1s進化論についてもっと知りたい方のために、古い牌の1sの画像を並べて、もっと詳しいやつを書くこともできます。とはいえ、中国の地方ごと、時代ごとに、北方の傾向、南方の傾向などで分類してまとめるのは、ぼくには無理ですね。それができるのは、今では江橋崇先生(元法政大学教授)だけだと思います。

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