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【読了】井上荒野「生皮 あるセクシャルハラスメントの光景」

セクハラを題材とした小説。
明らかに伊藤詩織さんの件を下敷きにしている。

主軸となるのは、カルチャースクールの小説講座の男性講師が、かつての教え子女性にセクハラの告発をされるという事件。
講師はカリスマ的な存在であり、幾人かのお気に入りの教え子に身体の関係を強要してきた。

強要といっても脅したり、無理やりといったわけではない。
教育の名のもとに、小説を書く上で必要なことだ、という空気でのみこんだという感じ。
そのため、被害を受けた女性たちも即座にこれはセクハラだ、レイプだと理解できず、ひとりで抱え込んできた。
それがふとしたきっかけでセクハラだと認識し、週刊誌に告発。オセロの裏表を返すように波紋が広がっていく。

面白いのは、男性側の視点からも物語が描かれる点。
男性は、無理やりなんてつもりはなく、合意の上でのことだった、とナチュラルに思い込めている。
だから急な告発に対しても、「やられた!」という感じではなく「なぜ?」という戸惑いが大きい。
これがリアル。セクハラ告発されるおっさん、まじでこういう感じなんだろうな。
強い立場であるのが当然すぎて、それ込みで教え子なり仕事相手なりの女性に接している自覚がない。
強者として都合の良い部分だけ利用し、そうでない部分では対等な男女の関係だ、と主張するし、一貫性のなさに本人は気づいていない。

そんなMeeToo的問題の構図がわかりやすく描かれている作品。
あとは、進んで”先生のお気に入り”として寵愛されようとする女性も出てきたりして、洗脳具合というか、誰にどれだけ非があるかはケースによって異なるよね、という視点も得られる。

不穏な空気の中を一気に駆け抜けるように読了、面白かった!


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