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【大流行】インフルエンザ基礎から予防まで: 薬剤師が解説する5つの重要ポイント


1. インフルエンザとは

 インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる呼吸器感染症です。主にA型、B型、C型の3種類があり、特にA型とB型が季節性インフルエンザの大部分を占めます。感染すると、発熱、咳、喉の痛み、筋肉痛などの症状が現れます。高齢者や基礎疾患を持つ人では重症化しやすく、時には死亡に至ることもあります。インフルエンザウイルスは変異しやすい特性があり、毎年流行するウイルス株が変わるため、予防としては毎年のワクチン接種が推奨されています。早期治療が重要であり、発症後48時間以内の治療開始が効果的です。


 インフルエンザウイルスの細胞内侵入と増殖の機序

大まかな流れとしては
1.ウイルスの細胞膜への吸着
2.ウイルスの侵入
3.ウイルスの膜融合
4.ウイルスRNAの脱核
5.ウイルス蛋白・RNAの合成(転写・複製)
4.ウイルスの放出

1.ウイルスの付着と侵入
 インフルエンザウイルスは、表面にあるヘマグルチニン(HA)というスパイク状のタンパク質を使って、宿主細胞の表面にあるシアル酸という糖分子に結合します。この結合によりウイルスは細胞に付着します。

2.ウイルスの侵入
 その後エンドサイトーシスというプロセスで細胞内に取り込まれます。

3.ウイルスの膜融合
 細胞内に取り込まれたウイルスは、内部のpHが低下することによって膜融合が起こります。

4.ウイルスRNAの脱核
 
インフルエンザウイルスにはM2タンパク質と呼ばれるイオンチャネルが存在します。このM2タンパク質は、ウイルス粒子が宿主細胞に侵入した後、ウイルスの内部pHを調整する重要な役割を持ちます。具体的には、ウイルス内部の酸性環境を中和し、ウイルスRNAの脱核(細胞質への放出)を促進します。

5.RNAの複製と蛋白の合成(転写・複製)
 
ウイルスのRNAは宿主細胞の核に入り、そこで複製されます。複製されたRNAはウイルスタンパク質の合成のために使用されます。新しいウイルスタンパク質とRNAは組み合わされ、新しいウイルス粒子が形成されます。

6.ウイルス粒子の放出:
 これらの新しいウイルス粒子は細胞表面に移動し、細胞からノイラミニダーゼにより切り離され、放出されます。

2.インフルエンザの症状

 代表的な症状には、突然の高熱(38℃以上)、強い倦怠感、筋肉痛、咳、喉の痛み、鼻水や鼻づまりなどがあります。特に、高熱と全身の倦怠感はインフルエンザの特徴的な症状で、風邪との区別が重要です。

 診断は、これらの症状と医師の臨床診察に基づき行われます。迅速診断キットが用いられることもあり、これは喉や鼻の粘膜から採取した検体を使ってウイルスの抗原を検出する方法です。この検査は15分程度で結果が出るため、診療現場でよく利用されます。ただし、迅速診断キットの感度は完全ではないため、陰性であってもインフルエンザの可能性を完全には排除できません。

 重症化のリスクがある場合や、特定の疾患を持つ患者には、PCR検査などのより精度の高い検査が推奨されることがあります。この検査はウイルスの遺伝情報を直接検出するため、より正確な診断が可能です。

3. インフルエンザ治療薬一覧


 インフルエンザ治療に用いられる代表的な薬剤には、以下のようなものがあります。
1.オセルタミビル(タミフル®) 内服:カプセル・ドライシロップ
作用機序:ノイラミニダーゼ阻害
用法用量:
・カプセル
 成人・小児(体重37.5kg 以上)の場合
  治療:1回75㎎ 1日2回 5日分
  予防:1回75㎎ 1日1回 7~10日分(小児は10日)

・ドライシロップ
 成人の場合
  治療:1回75㎎ 1日2回 5日分
  予防:1回75㎎ 1日1回 7~10日分(小児は10日)
 幼小児の場合
  治療:1回2㎎/kg 75㎎まで 1日2回 5日分
  予防:1回2㎎/kg 75㎎まで 1日1回 10日分
 新生児・乳児の場合
  治療:1回3㎎/kg 75㎎まで 1日2回 5日分
※腎機能低値で投与量調節

・注意点
 症状発現から2日以内に使用
 異常行動報告あり、自宅療養児は少なくとも発熱2日間転落防止処置

2.ザナミビル(リレンザ®) 吸入粉末剤・吸入懸濁用セット
作用機序:ノイラミニダーゼ阻害
用法用量:(成人・小児共通)
 治療:1回10㎎(2ブリスター)、1日2回吸入 5日分
 予防:1回10㎎(2ブリスター)、1日1回吸入 10日分


3.ラニナミビル(イナビル®) 吸入 1個20㎎
作用機序:ノイラミニダーゼ阻害
用法用量:
・吸入粉末剤
 成人・小児(10歳以上)
  治療:40㎎を単回吸入
  予防:40㎎を単回吸入 又は 1日1回20㎎を2日間吸入可
 小児(10歳未満)
  治療・予防:20㎎を単回吸入

・吸入懸濁用セット
 成人・小児
  治療・予防:160㎎を生理食塩水2mLで懸濁し、ネブライザーで単回吸入

4.ペラミビル(ラピアクタ®) 点滴
作用機序:ノイラミニダーゼ阻害
用法用量:治療のみ
 成人
  300㎎を15分かけて単回点滴静注
  ※重症化の恐れがある場合 1日600㎎まで増量可
   症状に応じて連日反復投与可
 小児
  10㎎/kg 15分かけて単回投与
  症状に応じて連日反復投与可、上限は1回600㎎まで
※腎機能低値で投与量調節

5.パロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ®) 内服:錠剤・分包顆粒
作用機序:依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬
用法用量:
 治療・予防
  12歳以上:20㎎2錠又は顆粒分包4包単位(40㎎)、
       80kg以上は20㎎4錠又は顆粒分包8包単位(80㎎)単回内服
  12歳未満:40kg以上の場合 20㎎2錠又は顆粒分包4包単位(40㎎)
       20kg以上40kg未満の場合 20㎎1錠又は顆粒分包2包単位(20㎎)
 治療のみ
  12歳未満:10kg以上20kg未満の場合 10㎎錠単回

・耐性化しやすく現在ほとんど使用されなくなった

※番外編
 アマンタジン(シンメトレル®) 錠剤・細粒
 適応:A型インフルエンザのみ
 作用機序:M2蛋白に作用し、ウイルス増殖過程の脱殻を阻害
 用法用量:1日100㎎、1~2回分服 最長1週間
※腎機能で投与量調節
禁忌:妊婦・透析を必要とする重篤な腎機能障害


4. 公衆衛生への影響

 インフルエンザの感染予防策は、個人と公衆衛生の両方にとって非常に重要です。インフルエンザは高い感染力を持ち、特に免疫力が低下している高齢者、幼児、妊婦、持病を持つ人々にとって重症化しやすいため、予防措置の徹底が大切となります。

 予防策の基本は、ワクチン接種です。インフルエンザワクチンは、特にリスクの高い人々や医療従事者に推奨されており、毎年の接種が重要とされています。ワクチンは流行するウイルス株に合わせて毎年更新され、感染リスクの低減や重症化予防に効果があります。

 次に、日常生活における衛生管理も重要です。手洗いは基本中の基本で、石鹸と流水を用いた丁寧な手洗いが効果的です。また、咳エチケット(咳やくしゃみをする際には、ティッシュや袖で口と鼻を覆う)の徹底も重要です。これにより、飛沫を介したウイルスの拡散を防ぐことができます。

 公共の場では、マスクの着用が感染拡散の防止に寄与します。特に混雑した場所や医療機関を訪れる際には、マスクを着用することが推奨されます。
 実はご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、コロナが蔓延した際インフルエンザの患者が激減しました。これは様々な要因が考えられますが、皆さんの感染対策として手洗いや、消毒、マスク着用などがインフルエンザの予防に大変寄与していたと思われます。特に今年はマスク着用をしない人も増えたこと、消毒回数が減ったことでインフルエンザの患者が増加しています。

 これらの予防策を踏まえ、インフルエンザの感染リスクを減らし、もし感染しても重症化を防ぐためには、これらの方法を日常生活に取り入れることが重要です。薬剤師としては、これらの予防策を患者さんに適切に伝え、指導することが求められます。

5. 薬剤師国家試験問題

オセルタミビル 10回
ザナミビル 7回
ラニナミビル 1回
ペラミビル 2回
パロキサビル 0回
アマンタジン 8回

第99回薬剤師国家試験 必須問題【薬理】
問39 ノイラミニダーゼを阻害する抗ウイルス薬はどれか。1つ選べ。

1 アシクロビル  
2 アマンタジン  
3 オセルタミビル
4 リトナビル  
5 ガンシクロビル

第97回薬剤師国家試験 必須問題【病態】
問58インフルエンザの薬物治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。
 
 1 ザナミビル水和物は、B型の患者に有効である。
 
 2 アスピリンは、小児の解熱薬として推奨される。
 
 3 アマンタジン塩酸塩は、B型の患者に有効である。
 
 4 ニューキノロン系抗菌薬が第一選択薬である。
 
 5 オセルタミビルリン酸塩は、症状発現直後の使用では有効性がない。

第102回薬剤師国家試験 理論問題【病態】
問 186 インフルエンザの病態、診断及び治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。

1 インフルエンザウイルスは、A、B、Cの3つの型に分類され、いずれもヒトに感染して典型的なインフルエンザ症状を発症させる。

2 インフルエンザによる死亡率が最も高い年代は、15歳以下の子供である。

3 迅速診断には、鼻腔・咽頭拭い液を用いた酵素免疫測定法が用いられる。

4 インフルエンザを発症した小児の解熱には、アセトアミノフェンは推奨されない。

5 慢性呼吸器疾患などのハイリスク患者にはオセルタミビルの予防内服が認められている。

第100回薬剤師国家試験 実践問題【薬剤】
問 280-281
70歳男性。同居している家族がインフルエンザを発症したので、予防のために近医を受診したところ以下の処方が出された。

(処方)
ザナミビル水和物ドライパウダーインヘラー 全 20ブリスター
1回2ブリスター  1日1回 10日間吸入

問 280(実務)本吸入剤の予防投与に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。

1 ザナミビル水和物の用法・用量は、治療に用いる場合と異なる。

2 感染者と接触後3日目に投与を開始する。

3 投与後異常行動の発現のおそれはない。

4 A型およびB型インフルエンザの予防に効果がある。

5 ザナミビル水和物の予防効果は吸入中止後も長期に持続する。

問 281(薬剤)本吸入剤に関する記述のうち、正しいのはどれか。 2つ選べ。

1 添加されている乳糖粒子は、薬物粒子同士の過度な凝集を抑える働きがある。

2 薬物粒子は、吸入時に効率よく気道に到達する空気力学径である 20μm前後の粒子径に設計されている。

3 薬物粒子が吸湿すると流動性が低下するため、防湿性の包装が施されている。

4 吸入時に、薬物粒子が二次粒子を形成するように設計されている。

 



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