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日々雑感2017

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記事一覧

世界をどう見ていくか?

最近知ったデヴィッド・オライリーというアーティストの作品がとても興味深い 例えば,『Mountain』は「プレイヤーが山になる」ゲームだ.何かが起こる訳ではなく,ただ太陽が登っては降りて,季節が移ろい...というそれだけのゲームだ. “山になれる”哲学的ゲーム「Mountain」が日本語化 言語の壁を超えても山の気持ちは分からなかった また最新作『Everything』は熊にカエル,テントウムシに花粉,微生物などありとあらゆる生命に「憑依」してその視点を体験していくゲー

時間と空間,振る舞い─『二つの「この世界の片隅に」 -マンガ、アニメーションの声と動作-』

「鳥」「笹」「バケツ」が象徴しているものは何か。登場人物に爪がないのはなぜなのか。一本のまつげは何を表そうとしているのか。ほんの小さな台詞の変更がもたらした思いがけない効果とは… 原作マンガとアニメーションを往復しながら、1カット、1コマにいたるまで詳細に「見/観」尽くした著者だからこそできる、ファン待望の分析本! *** 細馬氏の著作は『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか?』に続いて2冊目.相変わらず精緻で「細けー!」と言いたくなる分析が詰まった本で、思わず唸ってしまう.

物語・世界・宇宙─『構造素子』

書籍詳細選考会で絶賛を浴びた、現代SF100年の集大成たる傑作 L8-P/V2のエドガー・ロパティンは、SF作家だった父ダニエルの死後、残された草稿を目にする。それはL7-P/V1の母ラブレスが構築し、父ダニエルが実装したオートリックス・ポイント・システム、彼らの子供であるエドガー001の物語だった ■ 本年のハヤカワSF大賞.ちまちま読み進めていたが,ようやく読了. かなり複雑なメタフィクションのため,難解ではあったが,可読性は高い.選評にて「欠点を強いて挙げるならば完

秀逸な都市SF─『コルヌトピア』

書籍詳細 これはサイバーパンクか、未来予測か。2084年・東京を舞台とする都市SF 2084年、人類が、植物の生理機能を演算に応用する技術〈フロラ〉を生み出した未来。東京は、23区全体を取り囲む環状緑地帯(グリーンベルト)によって世界でも群を抜く計算資源都市となっていた。フロラ開発設計企業に勤める青年・砂山淵彦は、多摩川中流で発生したグリーンベルトの事故調査のなかで、天才植物学者・折口鶲(おりくち・ひたき)と出逢う。首筋につける〈角〉――ウムヴェルトと呼ばれる装置を介してフ

これが『ブレードランナー』か。とちょっと分かった─『ブレードランナー 2049』

リドリー・スコット監督がフィリップ・K・ディックの小説をもとに生み出した1982年公開の傑作SF「ブレードランナー」から、35年の時を経て生み出された続編。スコット監督は製作総指揮を務め、「メッセージ」「ボーダーライン」などで注目を集めるカナダ出身の俊英ドゥニ・ビルヌーブ監督が新たにメガホンをとる。脚本は、前作も手がけたハンプトン・ファンチャーと、「LOGAN ローガン」「エイリアン コヴェナント」のマイケル・グリーン。前作から30年後の2049年の世界を舞台に、ブレードラン

イメージの奔流と苦痛・陵辱─『グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉』

書籍詳細 仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在〈蜘蛛〉の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける――仮想と現実の闘争を描く〈廃園の天使〉シリーズ第1作。 ■ 見たことないけど想像してしまう(できる)風景がある. その風景は

『丹下健三 戦後日本の構想者』

書籍詳細 時代の精神を独自の美へと昇華させる構想力。丹下健三が創り出す建築空間は、高度成長の道をひた走る戦後日本の象徴であった。「建築の化身」。直弟子・磯崎新をしてそう言わしめた人物の足跡を、多くの逸材を輩出した「丹下シューレ」の活動とともにたどる。従来批判されてきたバブル期の活動にひそむ先見と洞察に光をあてる。 ■ 改めて丹下健三氏について学習中. 特に第4章の「丹下とどう対峙するか─丹下シューレのたどった道」を読むとその影響力の大きさが改めて伺い知れる. 目次はこ

「弱いAI」の時代がやってくる─『ツールからエージェントへ。弱いAIのデザイン - 人工知能時代のインタフェース設計論』

書籍詳細 人間のために働く、執事のような“エージェント”をどう設計するか?自動運転、掃除ロボット「ルンバ」、IBMの人工知能「ワトソン」を使ったアプリ…。IoTとともに、世の中を便利に面白くしている「弱いAI(特化型AI)」。そのなかでも、人間に代わって作業を進めてくれる「エージェント」型技術のコンセプトを打ち出した、人工知能時代のプロダクト/サービス開発において実用的なアイデアが得られる一冊。 軽快な語り口ではあるが,かなり実際的な部分にまで入り込んだ本だった.開発者と

「窓」から建築を語る傑作本─『内田祥哉 窓と建築ゼミナール』

書籍詳細 2015年度より窓研究所の主催で行なった、建築家・内田祥哉教授による「窓ゼミナール」。 建築構法学の第一人者である内田氏が、東京大学での講義にならい建築界の第一線で活躍する若手建築家・研究者に向けて、窓を切り口に内田氏流の「構法」、「建築設計」についてレクチャーを行なった。 本書では、この設計の真髄を「窓」から語りつくす非公開講座の全記録、聴講者の総括座談会と、編者による書き下ろし論評を収録。 ■ 面白かったです. ひとつひとつの建築作品の,「窓」などのさらに

解体を解体する─『エピローグ』

書籍リンク 現実宇宙を制宙するOTCの構成物質を入手すべく行動する特化採掘大隊の朝戸連と相棒のアラクネ。二つの宇宙で起こった連続殺人事件の謎に挑む刑事クラビト。宇宙と物語に何が起こってるのか? ■ 『プロローグ』と同じように、このタイトルはこの作品のありようを如実に現しているのではないか。作中に出てくるOTCが「虚構」それ自体のメタファーだと考えると、この作品はすべての物語の、まさに「エピローグ」なのだ。 「スマート・マテリアルとはいわば…N文字を利用して作成される全

視点を変えると見えるものが違ってくる─『予兆 散歩する侵略者』

山際悦子(夏帆)は、同僚の浅川みゆき(岸井ゆきの)から、「家に幽霊がいる」と告白される。みゆきの自宅に行くとそこには実の父親がいるだけだった。みゆきの精神状態を心配した悦子は、夫・辰雄(染谷将太)の勤める病院の心療内科へみゆきを連れていく。診察の結果、みゆきは「家族」という《概念》が欠落していることが分かる。 帰宅した悦子は、辰雄に病院で紹介された新任の外科医・真壁司郎(東出昌大)に違和感を抱いたことを話すが、辰雄からは素っ気ない返事のみ。常に真壁と行動をともにする辰雄が精神

工場と倉庫と郊外と宇宙人─『散歩する侵略者』

「数日間の行方不明の後、不仲だった夫がまるで別人のようになって帰ってきた。急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う加瀬鳴海。 夫・真治は会社を辞め、毎日散歩に出かけていく。一体何をしているのか…? その頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発する。ジャーナリストの桜井は取材中、天野という謎の若者に出会い、二人は事件の鍵を握る女子高校生・立花あきらの行方を探し始める。やがて町は静かに不穏な世界へと姿を変え、事態は思わぬ方向へと動く。 「地球を侵略しに来た」真治から衝撃の告白を

「AR」≒「おばけ」,「進歩」→「神秘」

*** お布団読書で『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』を読み進めている.前にも紹介したがとても面白い.ARの規格統一を図ろうとしたゲームについての回がとても興味深かった. 「おばけ」を「私たちの肉眼で通常は見えないもの」と定義するならば,ARの世界で生きる仮想的なキャラクターたちは「私たちの肉眼で通常は見えない」,つまり「おばけ」だと言える. ARはまだまだ発展途上の技術である. 話題となった「セカイカメラ」のサービス停止を見るなりAR世界が規格統一されることは

その男,本気なのか,本気で馬鹿なのか──『ユリイカ2017年8月臨時増刊号 総特集=山田孝之』

書籍情報 山田孝之大好きです. という訳で少し前に読み終わったこの本,存命の俳優に対してこんな特集するなんてやっぱり山田孝之はすごい!とか思っていたら,その次がcero特集とかユリイカどうなっているんですか!最高じゃないですか! 多岐に渡った論考が揃っていて,結構な割合で回想録的な風合いが強いのだけれど,ボスの缶コーヒーCMから見る文化論は面白かった.あとはやっぱり山田孝之といえば『凶悪』ですよね. 劇場で観た時は後を引きすぎてもう二度と観るもんか!となった.リリーさん