うなぎ絶滅後の世界を描く「ポストうなぎSF」─『うなぎばか』

もしも、うなぎが絶滅してしまったら? 「土用の丑の日」広告阻止のため江戸時代の平賀源内を訪ねる「源内にお願い」、元うなぎ屋の父と息子それぞれの想いと葛藤を描く「うなぎばか」などなど、クスっと笑えてハッとさせられる、うなぎがテーマの連作五篇。

仕事が落ち着いたので,久しぶりに国内SF小説を買い漁り,読んでいる.
まずは倉田タカシ氏の「うなぎばか」.

うなぎ絶滅後の世界を描く「ポストうなぎSF」

というキャッチコピーで土用の丑の日に発売された本作 .

著者の前作『母になる,石の礫で』

3Dプリンタが驚異的進化を遂げ、建築物から料理まで直接出力出来る未来。地球を脱出した技術者集団は小惑星帯にて3Dプリンタの応用技術で小さな共同体を創っていた。だが彼らと〈二世〉たちの対立は遂に発火点を超える。

は3Dプリンタが発展し,人体に3Dプリンタを組み込み各々が生存に適応した形態となった「ポスト・ヒューマン」を描くある意味王道なSFだった.

また,『AIと人類は共存できるか?』に収録された短編「再突入」は

AIが「創作」するようになった時の「価値」を問う,という極めてシリアスな内容だった.

それを考えると本作の「ポストうなぎSF」,つまり「うなぎ」という題材は内容を確かめてみるまでは「ふむん?」というテーマだったが,読んでみるとキャッチーさとは関係なくバランスよく楽しいエンターテイメントSFだった.


うなぎばか

うなぎのたれをめぐる騒動の中で、正路は元うなぎ屋の父との関係や自分の職業選択に葛藤し....

表題作である本編は,うなぎ絶滅後の世界での元うなぎ屋の一家をめぐる騒動について語られる.
元うなぎ屋の父が大事に残していた秘伝のたれを破棄してしまう,という噂からうなぎ文化の復活を願う「うなぎ文化保存会」と息子である「ウナギ」ら家族とのやりとりがオフビートで進んでいく.
うなぎを完璧に細胞で培養して復活させる,などSF的な要素を匂わせるが,全体としては導入の話としてとても読み心地の良い物語が展開される.
しかしながら,うなぎが絶滅しようとも文化としてのうなぎを守るため「たれ」の保存継承を願う「うなぎ文化保存会」の姿には何かを重ねてしまう.


うなぎロボ,海をゆく

うなぎロボの仕事は魚を守ること.ある日,海底で出会った蟹型ロボットは不穏な活動を....

お次は打って変わってうなぎ型のロボのお話.うなぎ絶滅以来,厳重に規制された漁業に対して発生した密漁.それを監視・探索するために登場したのが絶滅させられた「うなぎ」型のロボ,というなんとも肩の力の抜けるような設定なのだが,うなぎロボの独白がなかなかどうして色々と考えさせられるものがある.
中盤の蟹型ロボットとうなぎロボットの掛け合いには,人間の抽象的な意味表現を巧みに,逆説的に利用したやりとりがあり,思わず笑ってしまった.


山うなぎ

ポストうなぎを狙えるほど美味な獣を追い求めてジャングルの奥地へ向かう真美たち一行.その獣の意外な正体とは?

本作の中で一番ゆるーい雰囲気が流れているお話.うなぎ絶滅の煽りを受け,とある水産加工会社の解散となった元女子バレーボール部の面々が突如として現れた謎の食材の独占契約のため,ジャングルへ向かう...というお話だが,その正体がこれまた一騒動巻き起こす,という...


源内にお願い

”土用の丑の日”広告阻止のため,江戸の平賀源内を訪ねる宏と泰造.でも,そこにはうなぎが存在しなくて...?

これまた唐突に現れたタイムマシンに乗ってうなぎ滅亡を阻止するため,うなぎ需要の促進を図った”土用の丑の日”を発案した平賀源内に会いにいくという荒唐無稽な話だが,世界線移動やタイムパラドックスなど俄かに匂わせるSF臭.果ては「種の滅亡」というテーマまで話が及ぶ.


神様がくれたうなぎ

雄高の前に突然現れた神様.実和との恋愛成就をお願いする彼に,神様が逆提案したのは...?

最後は神が突然に現れ「あなたの願いをなんでも叶えてあげますよ」というこれまた荒唐無稽な話.主人公の雄高は思い人との実和との恋仲を取り持つよう頼むが,事あるごとに神様はうなぎを挟んでくる...
最後の話にして一番のほほんした物語だ.ほっこりした気持ちで読み終えることができる.



あらすじだけなぞっていくと何とも肩の力の抜けるような物語たちだが,その底流から感じられたのは,

私たちは「食べ物としてのうなぎ」を知っていても「生き物としてのうなぎ」を知らない,だから私たちは絶滅を私事として捉えられなかったのだ

ということだ.つまりそれは「情報の非対称性」のことを差していて総発信社会だからこそ考えなければいけないことなのではないかと思った.それは日常のものだからこそ普段は意識できない.だからこそ失われた時の「空白」が描かれることには一定の意味がある.そういうことなのだろう.

うなぎという生活に密着していたものがスッと消えてしまった時、人々の心の中にはどのような空白が生まれるのか──ユーモアの中に紛れるそうした喪失感の描写も抜群にうまく、スルっと読めてガハハと笑いながら染み込んでくるような話で、著者の二作目とは思えないほどおもしろい。
うなぎ絶滅後の世界──『うなぎばか』|基本読書





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