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「データ」と建築・都市の関係─「Archi Future 2018」

時間が空きましたが,「Archi Future 2018」を聞いてきましたので,ログをば.
※案の定,個人的な解釈が含まれているであろうことはご承知を.


「Archi Future」って?

建築分野におけるコンピュテーション活用を中心とした注目の最新動向と最新のソリューションを紹介するイベント.


2018年で第11回となる今年のテーマは「Society vs Digital ─技術は社会を超えたか?─」

基調講演では,Alibaba Cloud Senior Directorのティエン・フォン氏が登壇.杭州における都市分野でのAI導入における実践「ET City Brain」について語った(聞けなかった...).


●建物を「データ」で活用し倒す─「建物のデータは,無限の資源になる─BIMとAIとECと─」

特別セッション「建物のデータは,無限の資源になる─BIMとAIとECと─」では,日建設計の山梨知彦氏をモデレータにスターツコーポレーションの関戸博高氏と光田祐介氏が登壇.
同社はわずか数年でBIMの利用率を大幅に引き上げた.日建設計内で長らくBIMの利用普及に勤しんできた山梨氏はこの同社の驚異的なスピードについてすごさを語る.

なぜそのスピードが可能になったのか?
関戸氏と光田氏は社内のほとんどの実施設計や施工計画を担当するBIMの部署の設立,現場監督は現場に出る1カ月前からBIMを触りながら工程を確認するなど,BIMを「導入する」のではなく「BIMを使うため」の組織にしてしまうという大胆な組織変革が要因ではないかと語る.
また,同社は国内におけるBIMの電子申請1号案件にも現在取り組んでいるという.BIM利用における効率化も実現している.また,既存の建物をデータ化することで,FMにも利用するなど,建物のデータをいかに使うかがあらゆる点で実践されている.

同社の取り組みの根幹には「やるからには徹底的にやる」という精神がある,と述べる.
やり切ったからこそ,その先に問題点を発見することができる.それは同社がコンサルなどを活用せず,自ら勉強しながらインハウスで回しているからだろう.

建物のデータフロー─「BIM-FM PLATFORM」

さらには事業計画から維持管理までを担う「BIM-FM PLATFORM」を確立し,不動産データを利用した賃貸住宅の建築計画・事業計画の自動作成ツール(ピタットハウスの2億レコードもの賃料データや同社が保有する3年分の建築費のデータ,20年分の成約データなどを利用)など,機械学習やAIを用いたさらなる建物のデータ利用の可能性が述べられた.

投資効果を判断するための自動建築・事業計画作成ツールでは,従来一週間あまりかかっていた作業が15分で完了するという.
こうした幅広い取り組みができるのも,プログラムは自社内で書いているからだろう.また,機械学習や人工知能をあまり知らないからこそ,柔軟に取り組むことができているのではないかとも語った.

「BIM-FM PLATFORM」はさらにBIMとECを組み合わせ,材料の発注までを一括に完結させることで,建築のつくりかたにおいてまったく違うタームへ展開させようとしていることが感じられた.


●人間とデータの関係「Human is a bottleneck」─「Massive Data Flows」

特別対談「Massive Data Flows」では東京大学教授の池上高志が登壇.
まず,同氏は2008年あたりが革命の年だったと語る.それはジェフリー・ヒントンにより「ディープラーニング」という言葉が使われ始めたこと,サトシ・ナカモトがビットコインの論文を発表したこと,iPhoneの3G回線の登場など,現在私たちが恩恵に預かっている技術が登場し始めたのだ.
これにより何が起こったのか,扱うデータ量の爆発的な増加である.
ここから量は質へ転化されること,巨大なシステムは線形に見えること,など私たち人間では見えてこなかったことがコンピュータを通して初めて見えるようになってきた.

その時に同氏は「Human is a bottleneck」と語る.つまり,方程式や可視化を必要としているのは人間なのであって,コンピュータにはそれらが必要ない.その時に何を考えるべきか.

同時に同氏が取り組むコンピュータから生命を生み出す「人工生命」,アンドロイドと人間が共演するオペラ「Scary Beauty」も紹介された.「Scary Beauty」では「ずっと動き続けるシステム」について考えたという.
人間は大体は大掛かりなメンテナンスを必要とせず,数十年生き続ける.一方でロボットやアンドロイド,アルゴリズムがずっと動き続けることは難しい.これは建築情報学会において土井氏からも語られたことだ.

これもまた土井氏のレクチャーでも語られたことだが,人間とアンドロイドが協働するオペラを行ったことで,人間と一緒になって成立するアルゴリズムの存在の重要性にも気づいたという.
それは,続いて紹介されたテオ・ヤンセンのような風など現実の自然環境を利用した形のアルゴリズムにも共通するのだろうか.



「データ」はアウトプットを選ばない

ますます「データ」は存在感や重要性を増している.先日行われた「ARCH-ABLE」においてはデジタルファブリケーションにおける3Dデータ共有が語られたが,

3Dデータは何も現実にアウトプットせずとも,今はVR・ARを始めとしたxRにも利用できる.それらは体験の解像度を上げ,私たちの生活に入り込んでいる.実際に触れるものは重要だが,そうではないものも私たちの生活に必須となっている,
その時に,都市や建築は「データ」とどのように関わるようにしていくか考えるのは重要ではないか.

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