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”需要者目線”をどうつくりあげるか?「攻めるメディア!─THE GUILD勉強会」を聞いてきた話

先日開催された第4回THE GUILD勉強会「攻めるメディア!」を聞いてきました

概要
日時:2019/02/28(木)19:00 〜 21:00
場所:合同会社DMM .com 24Fセミナースペース
登壇者:
池田誠(いけだまこと)  TBSテレビ 報道局デジタル編集部
郭晃彰(かくてるあき)  AbemaPrime 総合演出
武市大志(たけいちたいし)  日本経済新聞社 デジタル編成ユニット CPO室 プロダクトマネージャー
深津貴之(ふかつたかゆき) THE GUILD / Interaction Designer
こばかな THE GUILD / Designer

デジタル上でのメディア発信の第一線を走るお三方のプレゼンの後,THE GUILD深津氏・こばかな氏モデレータによるトークセッション

既存のメディアと新しいメディアの間で揺れ動くメディアが多くいる中で,いかに「攻める!」が実践されているのか,紙媒体の雑誌を刊行する出版社でウェブ事業に携わっている筆者にとっては学びの多かった本イベントでした
断片的ではありますが,イベントの内容をレポートします

※筆者解釈なので,事実誤認等ありましたらご指摘ください(2019/03/06/09:48修正)
※計7,000字の記事なので,目次よりお好きなところからお読みください

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「TBS NEWS」見たことありますか?─池田誠(TBSテレビ 報道局デジタル編集部)

TBSはさまざまなSNSを駆使して,「テレビを見ることができない層」に向けて情報を発信しているという.現在ではTwitter,Youtube,Facebook,LINE,InstagramとさまざまなSNSを利用している.ここでは,池田氏のさまざまな試みが語られた

─「良い取材,良いニュースは見てもらえる」は間違い

元々は都市・建築デザインを大学で学んでいた池田さんは学生時代にラオスに行った経験から「人と会うのが好きだ」と気づき記者になることに思い至ったという

2000年にTBSに入社し,社会部,報道番組,経済部,編成などで調査報道や東電の調査を担当していた池田氏
当時の上司が「良い取材,良いニュースは見てもらえる」と言っていたことに疑問を持つようになる.なぜなら,秋田県生まれの池田氏は視聴できるテレビの系列が限られる環境で育ったから.当たり前のことだが,観る方法がなければどんな良いニュースを放送しても観てもらえる機会は生まれない
つまり,当時の社内では「どうやって届けるか」がまったく考えられておらず,またそれが問題視すらされてない状況にあったという
そんな状況に危機感を持ち,池田氏は有志で社内勉強会を開催するようになる.1年半ほど続けると,会社からも認められるようになり,2017年4月にデジタル編集部が発足


流れ作業からデジタルオリエンテッドへ

7年前よりデジタルに取り組み始めたというTBSだが,当時の取り組みといえばテレビに出たものをそのままウェブに流すのが関の山

当時の状況は以下の通り(〜2017年3月)
・Facebook Twitter(リンクのみ)
・ユーザーとコミュニケーションのできる双方向の場所はなし
・安全第一→すでに出ている情報・原稿には一切触ってはいけない

こうした状況に対し池田氏が主に試みたのが以下の4つのことであったという

●無音視聴→読める動画
Youtube LINE note Instagramも開始
答えられる質問には答える
テレビではできないことに挑戦する

●無音視聴→読める動画

ただ動画をウェブ上にアップロードするのではなく,見る人の環境を考える
電車の中のちょっとした時間で見ると考えたら,音声だけでなく字幕もあった方がよいのではないか?
そんな思考のもとにつくられたこの動画は,600万回超の再生数を記録.さまざまな層に届けられた
ここでは文字数にもこだわっているという.さまざまな試行の結果,15文字×2行が一番読みやすいとのこと


●Youtube LINE note Instagramも開始

ニュースは基本的には他局との差異がつきにくい
そこで,それぞれのSNSに適したニュースの伝え方を模索している.中でも,noteの「ニュースが少しスキになるノート」は
・長めの企画を読ませる
・記者や取材相手の顔が見える「小さな物語」を中心に読める化

を意識しているという


●答えられる質問には答える
きっかけはNewspicks上での識者たちのコメントのズレ.記者の仕事として正確な情報をQ&A的に答えるようなコミットの場をつくる必要性を感じた
そこで生まれたのが「教えてTBSニュース(ベータ版)」

ここでは現場の記者・カメラマンが質問に答えていく.兼務者を巻き込んで情報共有ツールで回答を募っている
これまでのニュースは一方向だったのが,これからは双方向になっていくのがある種の専門性になるのではないか と語られた


●テレビではできないことに挑戦する

再生回数よりも熱量重視のメディアをつくる
ひたすら話を聞いて,前編後編で30分くらいの動画に収める.テレビの企画ではなかなかできない.ここでは10,20代の視聴者が多く生まれ,地上波にも展開していくことになった


─いらすとキャスター

いらすとやのキャラクターが喋る,という試み.当初は,アナウンサーの役目が奪われるのではないかと社内で話題になったとのこと
なぜバーチャルキャラクターは美少女キャラばかりなのか,女性も見やすいようにと「いらすとや」が選ばれたとか.その経緯は下記のnoteに

どのくらいの効果があるかというと,いらすとやのサムネイルがあると,クリックのハードルが格段に下がるらしい

これからの報道においても取材してニュースを出すこと自体は変わらない.しかし,それをクリックしてもらう努力は足りなかったのではないかと感じていた池田氏
現在の試みは,「テレビで出せば観られる」という固定概念を崩していくものだと感じました



AbemaTVっぽいニュースの作り方─郭晃彰(AbemaPrime 総合演出)

お次はAbemaPrrimeの責任者である郭晃彰氏
実例を交えながらAbemaPrimeの取り組みが話された

●話題を逆算して企画を考える
●徹底したライブ主義〜災害報道
●マスじゃないけど誰かが熱狂する話
●ほかとは違う視点
●ちょっとしたタブー感に触れる


●話題を逆算して企画を考える
某人気グループの活動休止が発表されるにあたり記者会見が開催されることになったが,ウェブ掲載はNG
そこで,採用された手法が「アナウンサーが記者会見の内容をリアルタイムに喋る」だ.同時にAI字幕も用いられた
ここには「ファンはなんでもいいから情報が欲しいのではないか」という想定があり,また地上波がガラガラの時間帯である日曜日の夜という時間帯に勝機を感じたからだという.また,あまり精度の高くない字幕機能により,AI字幕×会見実況は絶対にバズるという確信があったという


●徹底したライブ主義〜災害報道
北海道での地震の際,現地に向かい,2時間ひたすら生中継し続けたという.AbemaTVではチャンネル数も増やせるので,超ローカルな情報をテキストで流し続ける試みも同時に行ったとのこと


●マスじゃないけど誰かが熱狂する話
通常テレビでは出てこないが,誰かにとっては切実な内容を届ける
吃音症の人の取材→言葉がうまく出て来ない人はテレビで取材しづらい.吃音学会の人からのリアクションもあり,いろいろな反響があった


●ほかとは違う視点
誰に伝えるかを考える?→たとえば,小林麻央さんのニュースでは,海老蔵さんが見たらどんな情報が知りたいかを考え,先に奥さんが亡くなった家庭を取材.印鑑の場所がわからないなど,その人たちにしかわからない体験が語られた
報道を検証→ある事件に対して,事件からしばらく経った後に,警視庁が立件しなかったことを,警視庁の取材を通して検証することを行なった


●ちょっとしたタブー感に触れる
自社批判も全力で行う
やってみた。系→アーチャリー松本さんにお酒を飲ませて話してみる企画


●そのほかのこだわり

トータルデザイン(使える色,フォント,フォントのサイズなど他の人につくらせず,デザインに統一感を出す)
LED演出×スクエアなスタジオ空間(テレビは向かい合うブーメランが多いが,直角のセットを使う.テロップなども)



日経電子版 プロダクトアウトからの脱却─武市大志(日本経済新聞社 デジタル編成ユニット CPO室 プロダクトマネージャー)

日経新聞は1867年に誕生した(当時は「中外物価新報」).
現在では,紙と電子版合わせて300万部の数字を叩き出す世界最大の経済新聞社となっている

消費者向けの有料インターネットサービスの先駆けとして知られる日経は月額4,200円のサービスで有料会員が60万人を超えている
そんな日経が目指すのは

コンテンツ×テクノロジー
「テクノロジーメディア」への道
記事にどういう形でテクノロジーを活かしていくのか,を考えること

プロダクトアウトからの脱却

これまでの日経ではいくつかの課題を抱えていた

●組織として,編集局とデジタルが完全に分離
→デジタル側は編集局の意図を汲んで開発しなければならないという風潮があった

●”読者のデータ”を持っていなかった

→新聞は販売店経由で読者に届けられるため,厳密に言うと,どの記事がどのくらい読まれているか,どの順番で読まれているかなど,読者の行動データを持っていなかった

●”データ”がないと,プロダクトアウトになる

→読者の行動という”需要者目線”がわからない限り,供給者目線でつくるしかなくなってしまう
→すると,「われわれが”価値判断”をするから読んでくれ」というスタンスになる.
プロが価値判断することには確かに価値があるが,変わりつつある社会に対し,それだけでは通用できなくなっている

●”価値”は多様化する

→情報がネットに溢れかえってる現代は多様性の時代であり,人によって価値の基準が大きく変わっている.そのため,どういう情報がどういう人に刺さるのか,ということがわかりにくくなっている.


「数字を気にする」習慣を身につける

そうした状況に対し,デジタル側でまず取り組んだのは,

いつ,どんな人が,どこから,どうやって,どれくらい読んだか
などのデータを可視化するツール「Data Squad」を内製して,編集局に提供することだった

しかし,それだけでは編集局は変わらない
「編集局がデータを見る文化」「数字を気にする」習慣を身につけないことには,どんなに優秀なツールがあろうとも意味がない
そこで,次に取り組んだのが,デジタルから,毎日毎日数字や傾向のレポートや編集局の意図と異なる結果も,臆さずレポートを共有し続けること.それによって,「数字を気にする」習慣を醸成していった

もうひとつポイントになったのがFinancial Timesの買収であった
Financial Timesでは,編集局がデータを見る,コンテンツマーケティングの文化が醸成されており,この交流により,「数字を気にする」文化が根付くようになった


なんでこの記事,読まれないんだ?

データを見る文化が根付くようになってくると,ある記事がなぜ読まれないのかが気になるようになってくる.そこで「記事の見せ方が悪いのか?」など内容ではなく伝え方の面での思考/試行がなされるようになる
Facebook広告を使って,手軽にテスト→システム開発せずに実現できることから見出しのA/Bテストなどを試みたそう
その辺りの詳細が下記の記事に書かれている

見出しのA/Bテストからわかるのは,ウェブではユーザーが「一瞬」で判断できるか,が重要だということ
新聞とウェブを比べてみると

新聞の見出し
見出しと本文がセットで目に入る
見出しでそこまでピンと来なくても,そのまま読み始めれる

ウェブの見出し
見出しとサムネイルだけで決める
脳内負荷を下げて上げることが大事
釣り見出しは長期的に逆効果

と新聞とウェブでは伝え方の文法が全く異なることがわかる

埋もれている有望な記事に光を

組織として編集局とデジタルが接近すると,デジタル側がキャッチした「トップ画面に出ていないが,地味にシェアされている記事」を編集局にリアルタイムに提案することができるようになる
これまで,内容は優れていてもタイミング的に読まれなかった記事にスポットライトを当てることも可能になる


見せ方だけでなく,コンテンツ自体も

新聞に馴染みがないユーザーが,有料の価値を感じるコンテンツとは?
ウェブでは基本的に無料という慣習が身についてしまってる.そこで,ウェブのユーザーが有料でもいいと感じるコンテンツとは何かということもA/Bテストを利用してテストした
テーマを絞った連載形式で,取材力・描写力を活かして人や企業の物語を書き下ろす「ストーリー」というコーナーを新設.トップページにストーリーのタブがあるないのA/Bテストを行った
→ライトユーザーのアクティブ率向上,有料会員の新規獲得に効果があった

編集局とうまく協働することで,組織として完全に分離していたものが寄り添って混ざることでよい相互作用が起きている


トークセッション

ここからモデレータとしてTHE GUILDの深津さん,こばかなさんが参加.
さまざまな議論がざっくばらんに話されましたが,気になった部分のみ取り出してみます

どうすれば攻められるようになるのか?
池田:いらすとキャスターについて.アナウンサーの露出の機会が少なくなる危惧があった.しかし,バーチャルキャスターという存在が捻出した時間で取材などに時間を割けるなどメリットといったポジティブな面を話すことで進めることができた
武市:深津さんの言葉で「腐ったら負け」が響いている.ロジックと思いのふたつがあればいつか伝わるので,根気強く続けることが重要
歪んだKPIとどう戦っていくか.PV至上主義との戦い.
広告ベースでマネタイズする以上はPVを多く獲得するために記事の分割やタイトルのつけ方が強制される可能性がある.そうした流れとどう折り合いをつけていくか
武市:編集局はアクセスが多ければいいものではないという思いを持っている.事業のことを考えるとある程度たくさんの人に見てもらう必要があるが,自浄作用が勝手に働くので,思い切りビジネス視点で提案していくことができる土壌がある
池田:マネタイズというよりはユーザーのリアクションを大切にする文化をまずは大切にしたい.また動画はアーカイブして見れるようにすることが重要.話題になった時に過去のものが発掘されることにアーカイブの効果がある
NewsPicksはコンテンツのバリエーションを増やし,コンテンツ兼パブリッシャーになってきている.そのような流れに対してどう向きあるか?
武市:社是として「経済の発展に寄与する」.その手段は時代に応じて変わっていく.今はコミュニティをつくることに注力(Nサロン).誰でも発信していくような場所をつくることが重要
池田:これまでTBSニュースは顔の見えないマスメディアという印象だった.これからは大きな枠組みのマスメディアではなく,個人をフォローしていく状況にしたい.視聴者の質問などにちゃんと向き合える場所にしていきたい


感想

筆者は90年以上の歴史を持つ専門雑誌を刊行する出版社で月刊誌の編集とウェブコンテンツの発信などを行なっています.

長年続けられてきたフォーマットの中で月刊誌という実際の「もの」をつくることには,ある意味ルーティンワーク的な側面があります.また,アウトプットが目に見える形で存在するので,あまり厳密に成果(?)を求められることは少ないです(特に読者が固定されがちな専門雑誌はそれが顕著な気がします).
それ故に池田さんの「良い記事は読まれる」という思考,武市さんでのプレゼンで言われていたように”供給者目線”で記事を考えがちになります.それはデータがないからこそそうなる,という指摘はなるほどなと思いました.
本来は考えなければならない”需要者目線”をいかに醸成していくかを考えなければならないと感じました.

ウェブで発信を行なっているとユーザーのリアクションは見えますが,それだけに従事していると,インターネットに親しみのないうちの会社のような場所では次第に社内から「あいつは一体何をやっているのだ?」と思われるようになります.すると試みのできる範囲は限られ,基本的にはウェブでの発信は縮小していく傾向になります(なっている).
そうした経験からも池田さんや武市さんが試みられていた草の根的な活動はマストであると個人的な実感から重要性を強く感じました.
仮にウェブでの発信が軌道に乗ったとしてもそれを継続していくためには適切なKPIの設定をした上,会社の上層部や同じ会社内の人たちに価値を提示し続ける必要があります.そのKPIの設定が非常に難しい,今回登壇された方たちもそれについて模索し続けていることがわかって,個人的に勇気がもらえました.

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FUKUKOZY

福田晃司.建築専門誌の編集者です.91年生まれ.デジタルデータと建築が融合すると何が起こるのかをウォッチングしたく,Unityなどをいじりつつネットサーフィンする日々.xRと建築のコミュニティ「xRArchi」/計算分離派

イベントレポート2019

参加したイベントのレポート書きます.月1回は書きたい.依頼も募集中(「お仕事依頼」よりご連絡ください)
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コメント3件

ご丁寧にまとめて頂き、ありがとうございます。
「秋田県生まれの池田氏はテレビを持つことが決して当たり前でない環境で育ったから・・・」とありますが、家にテレビが無かった訳ではなく、当時秋田県ではTBS系列、テレビ朝日系列の地元局が無かったため、民放は日テレ系とフジテレビ系のニュースしか見られなかったのです・・・(池田拝)
デジタルを強化したのは2017年4月からなので・・・「7年前から」ではありません(笑)
お読み頂きありがとうございます!
失礼しました…修正します!
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