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ハレルヤ! モーゼス─『評伝 ロバート・モーゼス 世界都市ニューヨークの創造主(マスタービルダー)』

ただいま上映中の『ジェイン・ジェイコブズ|ニューヨーク都市計画革命』にヒールとして登場しているロバート・モーゼスの評伝を読んだので,備忘録.

上記事でもちょっと触れたように上映中の映画では映画というメディア上,物語を分かりやすくするためジェイコブズvsモーゼスとした上で,モーゼスを「悪」としていました.
しかし実際,現実はそんな単純な訳ではなく,モーゼスが徐々に凋落し始めていたところ,時代の後押しもあり,ジェイコブズがすごく力を得たという背景があるみたいです(映画は良いですよもちろん).

こちらを読むと時代的に反体制の流れがあったということが何となんくわかるかと.

と映画は1960年代を描いているので,モーゼスのトップダウンなやり方が目につきますが,実際ニューヨークは「もしもモーゼスがいなかったら,ニューヨークはもっと危険な街になっていたかもしれない」のごとく,非常に重要な公共仕事をしていたりします.

拝聴はできませんでしたが,関連イベントで登壇した建築家の藤村龍至さんのツイート見ると,ジェイコブズ以降の公共の仕事も重要そうなので,この映画を観て単純に官民断ずるのもいくないっ!みたいな感じがある.(誰かレポートを...)

という訳で前置きが長くなったが,本書はそんなモーゼスの生涯を俯瞰してみれる.著者は『ジェイコブズ対モーゼス: ニューヨーク都市計画をめぐる闘い』を訳した方だと言うので,なんか納得.
そして,モーゼスの生涯を追うことはほぼほぼ当時のニューヨークの都市計画の流れを見る事に近く,非常に勉強になる.
まず目次を見るだけでもモーゼスの栄枯盛衰具合が分かる.

序章 
1章 若きモーゼス

イエール、オックスフォード、コロンビア/州知事アル・スミスとの二人三脚/さまざまな改革の実行
2章 モーゼス大奮闘
一般市民に行楽地を/ロングアイランド州立公園局長、そして州公園評議会議長に就任/州務長官時代/アル・スミス、大統領選に大敗、州知事にはルーズベルト、市長には「洒落もの、ジェイムス」/ハレルヤ! モーゼス
3章 州につづいて市の公園事業も掌握
ラガーディア市長との微妙な蜜月/ニューヨーク市は財政破綻の危機―モーゼス流の解決法/セントラルパーク動物園新装開園―アル・スミスへの贈り物
4章 交通網整備
トライボロー・ブリッジ/FDRのモーゼス追放の陰謀/ヘンリー・ハドソン・ブリッジとウエストサイド美化事業
5章 黄金期
私企業のメリットと、行政権力を併せ持つパブリック・オーソリティ(公社)/そしてついにトンネル公社の実権も手中に/ラガーディア市長の死、腐敗政治の復活、そしてモーゼス「やり遂げるためには代価は当然/国連ビル誘致―モーゼスがいなければ国連本部はフィラデルフィアに
6章 マンハッタン都心部の青写真
マンハッタン横断自動車道/マスタープラン騒動
7章 住宅供給事業
スラム撤去とアーバン・リニューアル/スタイブサント・タウン&ピーター・クーパー・ビレッジ/タイトル1事業(その1)マンハッタンタウン/パークウエスト・ビレッジ事業スキャンダル/タイトル1事業(その2)リンカーンセンター
8章 モーゼスの苦悩
執拗な批判と追求/1964年ニューヨーク世界博覧会
9章 潰えた夢
リンゼイ市長そしてロックフェラー州知事/ロングアイランド海峡横断道路橋
10章 モーゼス再評価の動き
ロバート・カロ著「パワー・ブローカー:ロバート・モーゼスとニューヨークの衰退」/ロバート・モーゼスと近代都市:ニューヨークの変貌/公園建設とパークウェイ、巨大橋梁、トンネルを含めた高速道路網整備/住宅供給事業、スラム撤去と都市再生、PPP/人種差別/汚職、不正利得
終章 
年表
あとがき

ジェイコブズが現れるのがだいたい6章から7章くらいのことなので,モーゼスがだんだんと勢いをなくしていく時代と呼応していたことがわかる.

「一般市民に行楽地を」

2章あたりをみていくと「一般市民に行楽地を」と言うタイトルが出てくる.このタイトル通り,モーゼスは当時,一般市民に娯楽を与えるという目的のため,邁進した.州が多額の借金をしてまでも,それを実現しようとしたのだ.そうして実を結んだのがロングアイランド州立公園だった.
ついでモーゼスはニューヨーク市の公園整備にも奮闘した.結果として,

「歩行者専用道路は38マイル分が舗装され,トイレは145カ所が整備された.公園に配置された彫像は284体が修復された.水飲み場678カ所,7000のくずかご,休憩用ベンチ22500,枯れた樹木7000本が片付けられ,代わりに11000本が植樹された.」83頁

が実現した.他にもスラムに点在していた空き地を公園へと転用し,市民の憩いの場をあらゆるところに生み出した.セントラルパークもモーゼスなくしては今の形にならなかっただろう.

そんなモーゼスの奮闘にロングアイランド州立公園設立の折には市民から「ハレルヤ!モーゼス」の声が上がり大称賛され,『アーキテクチュラル・フォーラム』誌は

「(ほかの自治体が公共事業をやりたいなら)モーゼスを誘拐する以外ない」

とまで書いたらしい.ちなみに『アーキテクチュラル・フォーラム』はジェイコブズが編集委員を務めていた雑誌だ(この後の話だが).
黄金期にはモーゼスは市民から絶大な支持を得ていたことがわかる.

ちなみにモーゼスはジョーンズ・ビーチへのパークウェイに架かる立体交差橋のデザインで,設計士に

「きみが橋の設計に長けていることは認める.でも,美しい橋はつくれないのかね?」

と念押ししたらしい.建築やデザインにもとてつもない興味があったようだ.そのこだわりが後に「リンカーン・センター」を生み出したのだろう.


目的のためには手段を問わない

一方で,モーゼスは当時から目的のためには手段を問わない人物だったらしい.

「この逸話に限らず,モーゼスはこの頃から実利をとるためには上位権力に忖度して,うまく立ち回る必要性があるという考え方に傾いていったかに見える.地元の有力者との交渉には,裏工作も利益供与も甘受することで用地の獲得,工事の進捗を迅速化できると学んだのだ.」66頁

映画でも登場したお得意の

「ならば,責任を取れない.辞任する.」

もこの頃から使われていた手段だった.モーゼスの代わりとなるものはいなかったのだ.法の穴をかいくぐり自分に有利な法律を生み出すなど,とにかくモーゼスは周到で油断できない人物だったらしい.しかし,結果としてその姿勢が行きすぎたことが映画で描かれていたような市民の反対を招いたのだろう(その辺りは映画で).


といった感じで他にもPPPのような公民連携のさきがけのような事業を行ったりと興味深い逸話が色々あるので,気になった方はぜひ本書を.

本書を読むとジェイコブズもモーゼスも都市の生活をよくするために奮闘したことが分かる.特に公共工事は莫大なコミュニケーション力やプロジェクト推進力,戦略が必要なので,モーゼスという人物がいかにすごかったか分かる.「都市」という一筋縄でいかない相手に対してどう立ち振る舞うか複眼的な視点で考えたいものだなと思いました.


モーゼスの評伝


ジェイコブズの映画


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FUKUKOZY

福田晃司.建築専門誌の編集者です.91年生まれ.デジタルデータと建築が融合すると何が起こるのかをウォッチングしたく,Unityなどをいじりつつネットサーフィンする日々.xRと建築のコミュニティ「xRArchi」/計算分離派

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