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「新しい暗黒時代」のために「考え続けよう」─『ニュー・ダーク・エイジ テクノロジーと未来についての10の考察』

〈情報の海〉で溺れないために ―― 最注目アーティストによる未来の洞察
現在最注目のアーティスト・思想家による初の著書。
デジタル・テクノロジーに覆われた現代世界を走査し、「新しい暗黒時代」の予兆を抉る。クラウド、気候変動、論文捏造、アルゴリズム、金融市場、ロボット労働、自動運転、機械学習など、数々のトピックを駆使して、未来を鋭く論じる。
情報テクノロジーはますます進化し、経済・政治・社会の変化を加速している。しかし今、人々は溢れかえる情報の海の中で、単純化された物語や「ポスト真実」に惑わされている。金融、ショッピング、AI、国家機密に至るまで、私たちは世界がどのように動いているのか理解できなくなっている。こうしたIT時代に潜む危険に、どう対処するか? テクノロジーに精通した気鋭のアーティストが、10のキーワードを提示し、未来を展望する。

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世界は複雑になり、その変化のスピードはどんどん加速している。
息を吸うように日々新しいサービスが開発され、発表されている。新しいテクノロジーが研究、発明されている。
私たちはそのほとんどのものに対して、どのような仕組みで動いているのかなんて知らないし、知ろうともしない。

本書は、イギリス・ロンドン出身のアーティスト|ジェームズ・ブライドルによる「新しい暗黒時代」の萌芽についての断想録だ。

コンピュータサイエンス、認知科学の修士号も持つ彼の思索は客観的な事実に基づきながらも、時としてアーティスト的に突飛なモチーフを提示し時代の変化、つまり「新しい暗黒時代」の兆しを探ろうとする。

アーティストとして彼が模索する「New Aesthetics(新しい美学)」とは

技術が身近で巨大になることで、それが不可知のものとなった時代の美学
329頁|監訳者解説

である。
本書は「C」からはじまる10の断章から構成され、著者は、より複雑で巨大になるテクノロジーが不可知の時代となった世界に対する思考のきっかけを与えてくれる。

Chasm─裂け目
Computation─計算
Climate─気候
Calculation─予測
Complexity─複雑さ
Cognition─認知
Complicity─共謀
Conspiracy─陰謀
Concurrency─同時実行
Cloud─雲

これらで取り上げられるのはクラウド、気候変動、論文捏造、アルゴリズム、金融市場、ロボット労働、自動運転、機械学習など多種多様である。
しかしながらそこに共通しているのはそれらはもはやあまりにも巨大で複雑すぎて、私たちには理解できないということだ。


Computation─計算」は、ジョン・ラスキンが1884年にロンドン協会で行った講演「19世紀の嵐雲」の引用から始まる。

これらの雲は、いま生きているか、または近年まで生きていた者の目にしか見えませんでした。(...)私が読んだかぎりでは、古代の観察者による記述はありません。ホメロスもヴェルギリウスも、アリストファネスもホラティウスも、このような雲をまったく認めていません。チョーサーはこれらに言及せず、ダンテにしてもしかり。ミルトンにもトムソンにもありません。近代においてはスコット、ワーズワース、バイロンも同様に、これらに気づいていません。最も科学者らしい観察眼と記述力をもちあわせたド・ソシュールも、これらについてはまったく何も語っていません
024頁

ラスキンは広まりつつある工場と環境破壊についてある言葉を与えた。そして、この言葉は今「別の雲」となり、私たちの世界に現れている。

計算はあらゆるものの中に実装され、私たちは見えなくなった計算を「信じる」ことで生活している。
人間はプレッシャーがかかればかかるほど認知的負担の少ない方法を選択しようとする。その時に計算が提示する明快な答えは(その途中過程が不明であろうと)認知的負担が少なく、それを選択してしまう。さらに進む先には、私たちは機械のごとく計算で考えるか、もしくはまったく考えない世界だろう。
計算はこれからも膨大な量で進化し続け、より明快な答えを与えてくれる。おそらくその進化は避けられない。

本書がほかに触れる事例に際しても、これからも進化・発展し、より巨大で複雑になっていくことは避けられないだろう。
その時、私たちがすべきことこそ「思考」なのである。
機械と共に思考し、どのように「新しい暗黒時代」を歩んでいくか。「考え続ける」ことを促してくれる1冊。

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