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『Marvel's Spider-Man』で巡るNY建築探訪

皆さんは『Marvel's Spider-Man』元気にやっておりますでしょうか?
私は購入後,食い入るようにプレイしています.


え?プレイしてない?
それは大変だ!今すぐゲーム屋に走ってPS4と一緒に購入した方が良いです!
こんな楽しすぎるゲームをプレイしてないなんてもったいない!

え,何がそんなに楽しいかって?それなら,今回は私なりの『Marvel's Spider-Man』の楽しみ方をお教えましょう.


スパイダーマンとしてニューヨークを飛び回る

このゲームの最大の特徴はやはり「現実のマンハッタンそのままのオープンワールドをスパイダーマンの視点で楽しめる」ということでしょう.

大ヒットした『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』や

『グランド セフト オート』

のような同じオープンワールド型の作品と本作が異なるのは「現実の都市そのままのステージ」,ここにあります.

これは大きな違いだと私は感じています.
今回紹介する楽しみ方はその特徴が存在しないことにはなし得ないからです.


マンハッタングリッドを楽しみ尽くすヒーロー

『Marvel's Spider-Man』をプレイしてみると,なぜNYがステージとして選択されたのか(原作の舞台ということもありますが)がよく分かります.

ニューヨークの都市構造を一言で表せば「グリッドによって構成された都市」です.
マンハッタンの歴史を描きながら自分の理論に接続するという奇妙な著作を書いたレム・コールハース著の『錯乱のニューヨーク』によれば,マンハッタンは

1807年 シメオン・デヴット,グーヴァナー・モリス,ジョン・ラザフォードによるマンハッタンはデザインされた.そして,それは「究極的かつ決定的」なモデルである

とされています.その「究極的かつ決定的」なモデルであるマンハッタンは,

南北に走る十二本のアヴェニューと東西に走る百五十五本のストリートをつくる,よって市内は,13×156=2028個のブロックに分割された.

という都市であります.つまり無数のグリッドで構成されているわけですね.
そして,このことが何をもたらすのかというと.

●グリッドによる細分化のための全体計画(都市デザイン)の否定
●資本主義による経済原理のため,それぞれのグリッドは所有者によって好き勝手にデザインされる
●グリッド同士は相互作用しない.むしろ差異化のための手法が模索される.
●グリッドによって,都市の物理的拡張の限界が規定されている.

と言った事態が起きます.このことによりさまざまなデザインの超高層建築が発生する「摩天楼」が生まれたのです.

そして,同時にグリッドは建築の外形を規定するため,都市としては東京のように渾然としてはおらず,むしろ整然としています.

このことが『Marvel's Spider-Man』のプレイ体験に大きな特徴を与えています.なぜなら東京のような都市構造が複雑な都市では,建物の間をビュンビュン駆け抜けていくという体験はできないからです.

つまり,「スパイダーマン」とは「摩天楼」があるからこそ生まれ得たヒーローであり,それゆえ,NYが最も似合うヒーローなのです.



「スパイダーマン」で巡るNY建築探訪

とここまでは都市レベルでの「スパイダーマン」の特徴です.個人的に最も楽しいのはゲーム内のNYの中で正確に再現された建築物たちを見に行けることです.
「スパイダーマン」の視点から見る建築たちは新鮮で,とても楽しい体験です.楽しすぎて全然ストーリーを進められていません.今回はそんな建築たちの一部を紹介します!!!!
皆さんもゲーム内に登場する建築たちに思いを馳せながら遊んでみてください!!!!


クライスラー・ビルディング|ウィリアム・ヴァン・アレン|1930

アール・デコ建築(1910年代半ばから1930年代にかけて流行した装飾的な建築)の代表作とも言える建築.

頂部はヴァーテックスと呼ばれるステンレスで構成された尖塔によるクラウンが特徴です.建築にはさまざまな装飾がなされ,それらがイコンとなっています.これらは20世紀の自動車をはじめとした機械文明を象徴するもの,だったという.
また,頂部の尖塔は当時世界一の高さを争っていた他の建物に勝つために継ぎ足されたという...



エンパイア・ステート・ビルディング|シュリープ・ラム・アンド・ハーモン|1931

1930年に建設された世界一高い建物であった「クライスラー・ビルディング」を抜くべく建設された建築.基壇部から徐々にセットバックしていく形態が特徴.

竣工後何年かは借り手がなく「エンプティ・ステート」と呼ばれていたとか 笑
コールハースは『錯乱のニューヨーク』にてこの建築のことを

純粋にして思考無きプロセスとしてマンハッタニズムの最終的な顕現形態であり、半意識的マンハッタニズムのクライマックス

と述べました.つまり「マンハッタングリッド」という特性がある種自動的に生み出した高層建築がこのエンパイア・ステート・ビルディングだったということです.



パンナムビル|ワルター・グロピウス+ピエトロ・ベルスキ|1958

パークアヴェニューの軸線の上に建つ高層ビルです.計画にあたっては,その巨大なボリュームをどう処理するかが問題になったそうです.そこで編み出された解法が四隅を切り落としたプリズム型のタワー.

従来の箱型の高層建築とは一線を画した高層建築として知られています.地上部にあるのはグランド・セントラル駅(1913).
グロピウスはモダンデザインの旗手として知られる人物.こういった高層建築にも関わっていたようです.



グッゲンハイム美術館|フランク・ロイド・ライト|1959

言わずとしれたライトの晩年の代表作.

螺旋状に進んでいく展示空間が有名で,その形状が外観にも現れていますね.中に入れないのが惜しいです.
『バッドボーイズ』とかに登場してた記憶が.

記念写真.イエーイ.



AT&Tビル|フィリップ・ジョンソン+ジョン・バギー|1984

ニューヨーク市中心部に建つ36階建ての建築.
なぜこの建築が有名かというと,ルネサンス風の基壇部とゴシック的な垂直性を持つディテール,そして屋上の切妻風の屋根が,それまで進められていたモダニズム風の建築とはまったく違う方向性を示したからです.
設計者であるフィリップ・ジョンソンはモダニズムの旗手だった人物,そんな人物がモダニズムとは異なるポストモダニズム的手法を用いた建築を設計したことは世間に衝撃を与えたそうです.


1979年のニューヨークタイムズの表紙にこの建築の模型を抱えたフィリップ・ジョンソンが登場し,1980年にヴェネツィア・ヴィエンナーレで模型が一般公開されました.
ポストモダニズムが盛り上がりつつある当時において,モダニズムの先頭として認識されていた彼のそうした行動は時代のターニングポイントとなる極めてパフォーマティブな振る舞いでした.同時にこの建築もある時代の1側面を象徴する建築でもあるのです!



今回はこんなもんで.
モチロンまだまだ面白い建築がこのゲームの中には眠っていると思います.地図を見ずにぶらぶらして探しているので,時間はかかると思いますが,またまとめて紹介したいと思います.
(そのうち動画も上げます)


解説参考文献:
『建築20世紀 Part1・2』(新建築社,1991年)

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