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スピーチの技術を高めるには?(応答編)

中学生・高校生にディベートを指導する機会も少しずつ増えてきたので、よく聞かれることをまとめておこうと思って記事を作っています。今回は、応答パートがスピーチの技術を高めるために意識すべきことを紹介しようと思います。

※この記事におけるディベートは、ディベート甲子園でのディベートのスキルアップを前提としています。



0.自己紹介と記事の特徴

※他の記事と同様の内容です

私は滋賀県立膳所高校弁論班でディベートに出会い、主にディベート甲子園を目指してディベート競技に取り組んでいました。当時は部員が少なく、1年生の秋に班長(一般的には、部長のこと)になりまして、この時期から立論作成担当になりました。

大会の結果は、
1年生のときは質疑で出場して、全国大会の予選リーグで敗退
2年生のときは第二反駁で出場して、全国大会の決勝トーナメント1回戦で敗退
3年生のときは新型コロナウイルスの感染拡大で大会自体が中止

という感じです。

そして、大学に入ってからは、NADE近畿のスタッフになり、ジャッジとしてディベートに関わることが中心になりました。ジャッジ経験は、公式戦では副審の経験しかなく、練習会では主審も何度か経験させてもらったというところです。選手としては、大学に入ってからは、ゼミで何度かやったくらいです。

といった経歴でして、私の特徴はこれらにあるのではないかと考えています。

①選手・ジャッジ両方の経験がある
②全国大会の相場感がなんとなく分かっている
③短期間でディベートの技術を全国レベルまで上げた経験がある

ディベートについては、たくさんの方が情報発信されています。
でも、意外と初心者向けの記事って少ないような気がするなと思って、情報発信をしてみようと思います。そのため、全国優勝を目指し切磋琢磨されているような人には少し物足りない記事かもしれません。

私が思うに、ディベートはある程度できるようになるまでは、
・早口で何を言っているか分からなかったり、
・壇上に立っても何も喋れなかったり、
・ぼこぼこに相手チームにやられてしまったり、
けっこうストレスが多い競技だと思います。
実際に、私も1年生の1学期とかは本当に辛かった気がします。

それに加えて、そのスキルは学校内だけで共有されていることが多く、
克服するチャンスに恵まれないと競技自体を敬遠してしまうことになりかねないのではないかと思うのです。

私の記事が、これからディベート競技を始めようという初心者の方や、ディベート甲子園に今年から挑戦しようという学校の一助となれば幸いです。


1.目的を持ってスピーチを行うこと

総論でもお話しした最も大切なことです。
応答パートでもこれを考えてみましょう。では、応答の目的とは何でしょうか?

第2条 各ステージの役割
第2項 質疑では立論の内容などについて質問を行い、質疑での応答は立論の補 
     足として扱われます。

全国中学・高校ディベート選手権ルール

ルールによれば、応答の役割は質疑に対して応答する形で立論を補足することのようです。であるとすれば、やはり応答パートにおいては、立論パートと同様に、立論の内容をしっかりと理解しておく必要があります。そうすることで、丁寧に説明をすることができますし、何を相手側が聞こうとしているかも掴めてくるようになるでしょう。

また、ディベートは勝敗のある競技ですから、質疑者が単に分からないことを聞いてくるとは限りません。さまざまな技術を駆使して、自分たちが有利になる議論に繋がるように質問を投げかけてくるかもしれません。そういった意味では、自分たちの立論を守るということも大きな目的となってくるでしょう。

この点でも、応答者ができることは変わりません。自分たちの議論、すなわち立論を理解しておくことです。そうすれば、どう答えておくことが試合の戦略として必要なのかが見えてくるはずです。

2.試合の流れを掴む

自分たちの立論を守る上で大切なこととして、試合の流れを知っておくということです。具体的に言えば、質疑で聞かれたことが、どのように第一反駁、第二反駁に繋がっていくかということです。

全国大会に出場を確実に決めていくチームは、どのチームも質疑から第一反駁、第二反駁までの流れが一貫したストーリーで丁寧に進んでいきます。質疑段階から、アタックをどのように進めていくかがチーム内で共有されているのです。ですから、この流れをみて対策しておかなければ、応答者は大きな弱みを応答段階でチームに負わせてしまう可能性があります。つまり、攻めやすいポイントを応答で引き出されてしまうのです。

立論-応答者は、早い段階で職務から解放されますから、ぼーっと試合を見てしてしまうときがあります。私のようなサボれそうならすぐにサボるタイプの人間はご飯を食べた後の試合はそんな感じでした。でも、これではダメなのです。どこを応答で引き出されて、反駁で立論が攻められているかを知らねばならないです。しっかりと第一反駁、第二反駁まで耳を傾けて必死にフローを取ってください。

3.「立論では述べていません!」は正解か

よくある応答の形で、「立論では述べていません!」というものがあります。
これをどのように評価すべきかという問題です。やや応用です。

この点については、連載「ルールの理解は勝利への一歩だ!」第二部 第4回 「立論では述べてないけど…」を参考にしましたので、興味がある方はそちらも参照してください。https://nade.jp/wp-content/uploads/2020/09/series2011-041.pdf


この問題に触れるにあたって、再び応答パートの役割を考えましょう。

第2条 各ステージの役割
第2項 質疑では立論の内容などについて質問を行い、質疑での応答は立論の補 
     足として扱われます。

全国中学・高校ディベート選手権ルール

これを少し生意気に読むと、なんだか応答というパートはよく自分たちの立論がよく分からなかった相手チームの手助けをする役割があるようにも感じます。
そうすると、・それって勝敗との関係では矛盾してないか?
      ・むしろ、ダンマリを決め込んで教えてやらない方が勝てるのでは?

なんて意見が出てくるかもしれません。
実際、私は、選手時代にそんな風に考えていたこともありました。

しかしながらそれは、間違っています。
確かに、何から何まで答える必要があるとは言えないかもしれませんが、応答者として補足して答えることが期待される情報というのが想定されると考えられます。

例えば、プランを導入しているA国の資料の背景事情について
「どういった目的でそれは導入されたのですか?」と質疑者が尋ね、
「我々の立論では述べてないです!」と答えるとしましょう。

このとき、立論で述べていないから答えませんという主張は、「分かりません」ではなくて「答えない」だから知らないわけではないのかもしれないなと思います。しかし、この目的が議論において重要なものだという場合には、「A国の目的は何だったかは重要な情報なのに立論にも入れていないし、質疑で指摘されているにも関わらず、応答で補足もしないんだな。」とジャッジは思います。そうすると、相対的に立論の評価が下がってしまう可能性があります。

「立論では述べていません。」は、知らないことを聞かれたときの逃げ道として用いられているきらいがありますが、必ずしも賞賛されるテクニックではないと思います。

ただし、相手側が全く議論の枠を超えるような話をしてきた場合には、「そういった話は我々の立論ではしていません。」とキッパリと話を終えてしまうというのは、議論のミスリードを防ぐために適切なコミュニケーションとしてあり得るような気がします。


4.コミュニケーションであることを忘れない

質疑・応答はディベートの試合の中で唯一、直接のコミュニケーションを取る機会です。ゆえに、相手に対してより一層の敬意を持ってスピーチに臨むようにしましょう。ディベートは皆さんに取って勝敗のある競技かもしれませんが、試合ができるのは相手チームがみなさんと同じく難しい論題に向き合ってくれたからです。

応答者視点で意識してほしいこととしては、以下のものです。
・相手の質問の意図が分からなかったら、もう一度聞き直すなどして聞こうとしていることを理解しようとしてください。
・相手が頼んでもいないのに立論の一部を読み直すことや、求められていない説明までして時間を稼ぐのはやめてください。

質疑の論点の選択や時間配分は質疑者に権利がありますから、これを侵すことがないように気をつけてください。むしろ、相手と直接のコミュニケーションを取れることはとても素敵なことですから、それを楽しんでくれると良いと思います。
この試合の質疑(13:53〜)は、すごく素敵だったと思ったので、よければ。


以上で、応答編は終わりです。
応答パートの皆さんは、立論パートも担当するでしょうから、以下の記事も参考にしてみてください。

また、応答パートの皆さんは、相手方の質疑パートがどういうパートなのか知っておくことも重要でしょうから、よければ質疑パートの方も読んでみてください。


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