ふくしまの、まちをつくる人たち #6

カタル葉 穴澤史緒  -Anazawa Fumio-

これまで、一体どれだけの人が彼の言葉にちゃんと耳を傾けてきただろうか。

はじめに断っておいたほうが良いと思うのだけれど、この記事で「カタル葉」がどんなブランドなのか、きっちりと定義されることはない。ただ、これからどんなブランドになっていくのか、想像してもらえるとは思う。進化の途中である彼の現在を伝えることに徹したい。

それから、これまで穴澤さん自身がSNSなどを通じて発信してきた想いを、他者だからできる表現で、少しでも読み手に伝えたいと思う。

1時間程度の取材の中で、一言一言紡ぎ出される言葉たちは、まるで居場所を探すかのようにふわりと宙を舞い、漂っていた。僕はその言葉たちを、壊してしまわないようにそっとつかまえておいて、今、文字に落とし込んでいる感じだ。


穴澤さんが、旅する花屋「ハヤシラボ」、「植物憑現家(しょくぶつひょうげんか)」、「史緒(ふみお)」といくつもの表情を見せてきたこれまでの活動を経て、新ブランド「カタル葉(は)」を立ち上げた今の想いを聞くことができた。


「ハヤシラボ」、「植物憑現家」、「史緒」としてのこれまで。

穴澤さんが花屋として広く認知されているのは、間違いなくハヤシラボとして活動してきたからだ。

穴澤さん「ハヤシラボをはじめたときは、武者修行みたいな感じでしたね。たくさんのお客様とお会いして、自分ができることを多くの人に知ってもらいたいという想いがありました。店舗を持たずに、自分からどんどん外に出て行こうと思って、福島県内外各地のイベントに出店したり、ハナゼミ(お花の教室)を開催したりしてきました。初めから”旅する花屋”になろうと思っていたわけじゃなくて、結果的に”旅をするように花を売る”ことになったんです。」

大型のイベントに出店して、ハヤシラボとしての知名度は順調に上がり、お客様と触れ合える機会は増えていった。でも、一方で少しずつ疑問に思うことが出てきたという。

穴澤さん「花に興味の無い人にも手にして貰える様、希少な花も仕入れ、高くない値段で出店をしていました。すると、多くの方が足を止めてくれる様になりました。花が特別であった人たちの、花への敷居を下げる事は出来たかもしれません。しかし"珍しい花を安価に売る花屋"というだけの価値であれば、僕で無くても良いなと思う様になりました。」

穴澤さんは、ハヤシラボとして活動する傍ら、あるときは「植物憑現家」、また、あるときは「史緒」として、個人の思想を植物で表現してきた。植物を纏うこと、何かを植物で象ること、植物で空間展示をすることなど、表現の方法は幅広い。

一般的に認知された「花屋」というイメージの中で、穴澤史緒としてどう生きるか、彼自身の中でも答えは出ていないようだ。花屋として生きること、個人として生きることを区別して過ごしていくことに違和感を感じたことが、新ブランド『カタル葉』の立ち上げにつながっていく。


”花”と、”生きる”。

人は生きていく中で、多かれ少なかれ、自分の存在意義を考える時期があるのではないだろうか。穴澤さんは、幼いときから心のどこかに”生きづらさ”を感じてきたという。

穴澤さん「うまくは言えないのですが、社会の中で生きて行くには、社会に認められたあるキャラクターの中で生きなくてはならないという感じがありますよね。大抵の人は、なんとかしてそのキャラクターを見つけて生きていくと思うんです。僕は、大学生のとき、周りの人は何かしらの意思を持って大学に来ているのに、自分にはそれが全然無いなと思って、コンプレックスの塊みたいになっていました。引きこもりになった時期もありました。社会のどこにも属していないんじゃないかという不安は、昔からありました。」

穴澤さんがそういう”生きづらさ”を感じる中で、常に身近な存在としてあったのが”花”だったという。幼いころから、祖父が庭で育てるたくさんの植物たちを見て育ったそうだ。

穴澤さん「好きな花や植物と過ごせて、花屋としてお金を頂いて、かつ少しだけ自己表現ができるから、自分にとっては、ある意味都合が良かったのかもしれません。」

現代社会において切り離すことのできない”経済活動”と、自分の存在価値である”自己表現”の両方のバランスを、花屋であることで維持しているようだった。穴澤さんにとっては、”花”は”生きる”ことそのものなんだ。


「いま、繭の中にいる。」

カタル葉を立ち上げるにあたり、これまで持っていなかった活動の拠点をついに構えることになった。かつて公共施設として使われていた古い建物で、少しリノベーションしたり、古家具を入れたりしてつくったアトリエだ。この場所に、穴澤さんはcocoonという名前を付けた。

穴澤さん「蝶々って、幼虫から蛹になって蝶に変わっていく、完全変態の昆虫ですよね。僕はいま、まさにそんな感じで。”ハヤシラボ”や”史緒”としてやってきたことを、もう一回まっさらにして再構築したいと思っています。カタル葉は、花も売るし、装飾もするし、自己表現もする。そもそも、花屋である前に人だから、花を売るだけじゃなくていいはずなんです。」

カタル葉では、仕事の内容だけでなく、情報発信の方法も変えていくという。例えば、これまで穴澤さんは、自身のSNSやブログで、自分の言葉で想いを伝えようとしてきた。でも、伝えようと思えば思うほど、言葉が多くなり、本質が伝わらなくなってしまったという。

穴澤さん「以前ブログで、「ドライフラワーは扱いません」と書いたことがありました。そうしたら、ドライフラワーは駄目なものなんですか?という問い合わせをたくさん頂いて。自分としては、ドライフラワーを否定しているわけじゃなくて。僕は、花が最も美しく生きている瞬間を無視して、いま正に生きようとしている花を切ってすぐにドライにするということはやりませんよ、と伝えたかっただけなんです。花が老いていき、花屋としてお客様にお売り出来ない状態となれば、更に見て貰える様ドライにする手段も選びます。手段を否定するつもりはありませんが、そういうニュアンスを伝えるのが難しいのです。」

これは、1つの例だけれど、説明すればするほど、伝えたいことがうまく伝わらないという経験が、何度もあったという。だから、カタル葉では情報発信はプレス担当の方に任せて、穴澤さん自身が情報を発信することは極力減らすそうだ。

こんな風に”カタル葉”は、仕事の内容も、情報発信の方法も、働き方も変えて、これまでに蓄積された経験をベースに、新ブランドとして再出発していくこととなった。

穴澤さんはcocoonの中で、いま少しずつ形を変えていて、やがて蝶となってひらひらと飛んでゆくのかもしれない。その蝶は、これからどんな花を巡って、どのように舞うのだろう。その蝶から、まだ僕らが出会ったことのない美しい花の姿を、もっともっと教えてもらおう。

                   ふくしま空間創造舎 上神田健太


カタル葉 穴澤さんには、2018年1月28日に、ふくしま空間創造舎が開催したイベント「芸術と技術のあいだ展」に参加していただきました。
穴澤さんの作品、当日の様子はこちらのレポートからご覧いただけます。

https://note.mu/fukushimakuusou/n/n061190ce3cd6







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ふくしまの、まちをつくる人たち

福島全域を対象に、福島にはない新しい仕事にチャレンジする人たちに取材して、記事を書いています。この人たちが、福島の魅力を確実に高めています。
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