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【第7話】実は似た者同士だった美都と麗華――結婚相手は“なりたい自分”になるための道具!?

●都合の悪い現実から目をそらし続ける涼太&美都

妻に不倫されても夫婦仲の亀裂を直視しようとせず、問題をなかったことにして変わらず愛し続けようとする涼太(東出昌大)。妻の気持ちも自分の気持ちも麻痺させて突っ走るその言動は、はたから見れば人間の感情を理解しないモンスターに見える。そんな夫がほとほと怖くなった美都(波瑠)は、家を出て有島(鈴木伸之)に「逃げよっか、2人で」と提案する。

しかし、女性に対して呼吸するように“心なく優しく”できてしまう天然ヤリチンメンタルの有島にとって、本丸はあくまで妻の麗華(仲里依紗)と子供の亜胡。何もかも捨てて美都に走る覚悟など、はなから持ち合わせていない。前回、「好きなことしていいって言われたら、あなたを一人にしない」と麗華にキツいお灸を据えられた彼は、すっかり怖じ気づいてしまっている。

美都に本当の気持ちを聞かれて、「やっべー! 俺、失敗した? こえー! 道間違えた…。あこしゃん、かわいい〜」と、身も蓋もない本音を打ち明ける有島。

美都「私が路頭に迷ってたら?」
有島「心配する……フリして家に帰る」
美都「もう一度、再会したところからやり直せるとしたら?」
有島「コーヒー飲んでポテト食って、少し話して、そのまま帰る。で、忘れる」
美都「もし、中学のときの私の部屋からやり直せるとしたら?」
有島「……(無言)」

美都が“即席タラレバ娘”と化しているのは、この期に及んでどうしても「あのとき出会っていたら、お前を選んでいたよ」という言質を彼から引き出したいからだろう。もはや、“運命の相手が確かに存在した”というかすかな証拠にすがるしか、美都に希望はないのだ。

有島もそれをわかっているからこそ、これ以上つきまとわれる根拠を与えまいと、意地でも甘い言葉を返さない。そして、「ごめんな、俺が悪い。家に帰れ。な、まだ間に合うから」と、とうとう決定的な“手に負えないからリリースします”宣言をするのだ。

気持ちの行き場も、物理的な行き場も失った美都は、母・悦子(麻生祐未)のもとを頼る。「嫌なら、逃げ回ってないで本音で話せば? 夫婦なんだから」という悦子の言葉に、美都が心の声で「夫婦だから……涼ちゃんだから話せないの」と返すのが示唆的だ。

夫婦というのは、2人で作り上げるいわば“共同幻想”だが、それは“幻想”であるがゆえに、世間体や体面と同じように個々の本音を犠牲にして成り立っているともいえるだろう。

ずっと“母親みたいにはなりたくない”一心で、安定した結婚に執着してきた美都だが、自分の欲望に忠実になった途端、結局は自分も母親と同じ“結婚に向いていないタイプ”だったことが露見してしまうとは、なんとも皮肉なものだ。

“運命の相手=有島君”“母親とは違う幸せな結婚の達成”という、しがみついていた2大幻想をすべて打ち砕かれてしまった彼女は、「なんか、何もかも嫌になった。どうでもよくなっちゃった」と、現実を放り投げてしまう。

自分が見たいものだけを見ようとして、現実と齟齬が起きていることを認めようとしない、という点で、涼太と美都は実は似た者同士だ。だから、涼太が美都を連れ戻しにきたとき、きちんと話し合うのではなく、なぜか2人で占いに行くという謎行動に出るのも、ドラマの展開としては無理があるが、“こんなときすら占いに逃げる人間だから”と考えれば納得がいく。

2人のバイオリズムが谷底と言われてムキになったり、あてつけのように「有島光軌」で姓名判断してもらおうとしたり、その占い師に「有島光軌は最高の名前だ」と言われて墓穴を掘ってすねちゃったりと、とても大人とは思えない言動を取る涼太は、“人間の感情を理解しないモンスター”を通り越して、もはや痛々しいピエロにしか見えない。

美都が陶芸教室で作ったそばちょこを、揉み合って床に落としてしまったとき、「ほら、落としても割れない、ね?」とすがりつくように笑う涼太は、悲しいほどに滑稽だ。“おもろうてやがて悲しき涼太かな”と一句詠みたくなる。

さて、回を重ねるごとに不穏な動きを見せる小田原(山崎育三郎)だが、今回は、涼太のメガネフレームとわざわざお揃いにしたのか、迷彩柄のジャケットで彼の前に現れる。なんていじらしいんだ。奥さんが家を出て行ったと告げる涼太に「嬉しい?」と聞かれ、「どういう意味だよ」と動揺する姿もかわいいじゃないか。

とうとう、いてもたってもいられなくなって美都に会いに行き、「失礼ですけど、渡辺とは別れたほうがいいと思いますよ」と進言する小田原。すわ、恋敵への宣戦布告か? “涼太を幸せにできるのは俺だ”宣言なのか? と色めきたったが、「というより、奥さんのためかな。美都さんには、幸せになってほしいから」となにやら意味深な発言も。期待通りのBL展開には進んでくれないのかもしれない。

●麗華は有島のもたらしてくれる恩恵にしか興味がない

ある意味、相変わらずの平常運転とも言える涼太&美都はさておき、今回注目したいのは、実は麗華である。これまで有島の浮気癖に目をつぶって泳がせていた彼女が、珍しく「たまにはおしゃれして、子供を預けて2人で食事したい」とわがままを言ったのだ。

こうして実現した有島との焼肉デートで、2人が初めて出会った日が回想される。それは7年前、麗華がバイトする焼肉屋に、有島を含めた高校の同級生グループが訪れ、たまたま再会したときのことだ。地味キャラでろくに名前も覚えられていない彼女のことを、有島は「麗華」と名前で呼んだ。それに触発されて、麗華は自分から彼にキスを仕掛け、「気持ちいいね」とつぶやいたのだ。結局、それによって彼女は、有島にとって一気に“気になる存在”へと躍り出たらしい。なぜあんな大胆なことをしたのかと問われ、彼女はこう答える。

麗華「ただ、自分の気持ちに正直だっただけ。興味が湧いたのかな…」
有島「俺に?」
麗華「…自分に。“麗華”って、大嫌いな名前を呼ばれたときの自分の気持ちに。あのときに限ってなんであんなね…」

ここで、彼女が“有島に”興味を持ったのではなく、“自分に”興味を持った、と答えたことに注目したい。地味で虐げられていた自分の名前を覚えていてくれた、有島の優しさに惹かれたわけでは決してない。この男となら、“麗華”という派手で似つかわしくない名前に釣り合うだけの人生を歩めるのではないか。“麗華”という名前を持つ自分を好きになれるのではないか。そう彼女は思ったのではないだろうか。主語はあくまで“自分”なのだ。

2軒目に訪れた高級そうなレストランで、麗華は「こんなキラキラしたところ、光軌と結婚してなかったら、たぶん来てなかった」とお礼を言う。

麗華「自分がこんな風に結婚して、子供を産んで、明るい家庭を築けるなんて、思ってなかったから」
有島「そんなこと、ないって」
麗華「うちがひどかったから。母さんが私のこと、自分みたいにならなくて本当によかったって、光軌に感謝してた」
有島「うん。だから、もういいって」
麗華「母さんとは正反対の、きれいでかわいくて、わがままな女が大好きで、母さんをいつも泣かせてた、父さんとは違うって」

そして、「亜胡がいて幸せ。亜胡を私にくれて、本当にありがとう」と言うのだ。おそらくこれは、隠れて浮気をしている彼への皮肉などではなく、彼女の偽らざる本心なのだろう。しかし恐ろしいのは、彼女の言葉の中に、有島自身のいいところや好きなところへの言及がまったくないこと。あるのは、有島が“幸せな家庭”という階層上昇をもたらしてくれたことに対する感謝だけなのだ。

有島は、麗華が自分にありがとう、いてくれて幸せ、助かった……と感謝をするたびに、いつも違和感を感じていたという。彼はその違和感を、スネに傷を持つ後ろめたさからか、「俺が何もがんばってないからだ」と解釈するが、そうではない。彼女の感謝が、はなから有島との結婚によって得られる“恩恵”にしか向いていないからだ。

そうとは知らず、不倫の罪悪感から、麗華の感謝の言葉を勝手にあてこすりと勘違いした有島は、「バカだった」「だって…知ってるんだろ?」と不倫を自らゲロってしまう。前回、私は麗華のことを「直接的に責めたり、問いつめたりする言葉を奪われた女性は、遠回りになじったり、巧みに罪悪感を負わせたりして相手を追いつめるコミュニケーションに長けてしまう」と書いたが、今回はまさにそんな彼女の面目躍如。麗華がもしも刑事だったら、きっと被疑者を自白させる天才だったに違いない。

結婚というイベントと、その相手を、“なりたい自分”になるための道具としてしか見ていないという意味で、実は麗華と美都もまた似た者同士なのかもしれない。母親と同じ轍を踏みたくないと思っているにもかかわらず、知らず知らず同じ呪いにかかっているところもそっくりだ。

“あなたのことはそれほど(好きではない)”は、美都にとっての涼太のことだけでなく、麗華から有島への気持ちでもあったことが露呈した第7話であった。

せっかく突きつけた離婚届を、涼太に満面の笑みでビリビリに破かれてしまった美都も地獄だが、やぶへびで不倫を認めてしまい、麗華に冷淡に扱われることになるであろう有島の地獄からも、目が離せなくなりそうだ。

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【2019年の福田から一言】
涼太と美都が似た者同士であること、そして麗華というラスボスを掘り下げ始めて、美都と麗華もまた共通点を抱えていることが徐々にわかってきた回。この辺りから原稿にもドライブがかかってきた気がします。


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