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【第6話】母親譲りだった麗華の“帰る港”戦略――わがままを言えない有島と麗華の暴走が怖い!?

●カメラワークがホラー映画!涼太のサイコスリラー演出

前回、涼太(東出昌大)が美都(波瑠)に不倫されても“怒れない”のは、自分がどう感じるか/どうしたいのかというモノサシを持っておらず、「お天道様」という世間の目に従って“誠実で優しく正しい夫”を演じる方法しか知らないからではないか、と書いた。だから、ひとたび「お天道様」が怒る=タガが外れると、これまで抑えてきたネガティブな感情が歪んだ形で暴走してしまうのだ。

奇しくも第6話には、「あいつのモノサシは、お天道様らしいですよ」という小田原(山崎育三郎)の台詞が出てくる。そして、モノサシの壊れた涼太は、今回ますます不気味な珍プレー好プレーを見せてくれた。

まずは、公園に行って有島夫妻を牽制したついでに、急にイメチェンして帰宅。有島(鈴木伸之)を意識したLDHっぽい服装で美都にあてつけをしているのだろうが、これには当の美都からも「あのメガネの迷彩っぽくなってるところが、なんかイヤ」と脳内でイジられている。

決して怒ったり責めたりせず、にこにこ笑ってあてつけをかましてくる涼太を気味悪く思った美都は、「どうしてずっと笑ってるの? どうしてそんな楽しそうなの?」「普通こういうことあったら、なじったり話し合ったりするべきじゃないの?」と問いかけるが、涼太は取り合わない。

涼太「僕にはみっちゃん以上の人はいないし、みっちゃんにも僕以上の人はいないよ。なじるのも話し合いも無駄だ。それよりも、これからをどう楽しくやっていくのか。そういう話し合いなら、大いにしたいけどね」

悪いことをしたのに咎められない、絶対怒っているはずの夫が笑っているという飼い殺し状態は、美都にとって許されることよりも、許されないことよりも不気味でしんどい状況だろう。「2人で楽しく暮らすための提案」として、「2人でいるときは他の人と連絡しない」「食事のときはなるべく会話を」というルールを次々と提示する涼太だが、体裁を取り繕うための策はすぐにほころびる。

美都がネットで買ったピクルスを「ちょっと甘くていまいち」と言っていたのに、美都が「ちょっと甘くて私は好き」と反論すると、数分経って何事もなかったように「このピクルス、やっぱりおいしいね」と手の平を返す涼太。彼の中では、夫婦のすれ違いや趣味の不一致は瞬時になかったことにされ、“話が合う仲良し夫婦”というハリボテのイメージに書き換えられているのだ。これは怖い。サイコスリラーである。

実際、第6話の演出は、意図的にホラー映画の手法がたびたび使われていた。ソファに座っている美都からカメラがパンすると急に隣に涼太がいたり、美都が話しかけると急に「うん、なに?」と前のめりになる涼太の顔のドアップになったり。美都にとって、涼太がどんどん真意の見えない“他者”“異物”になっていくという心象描写なのだろう。

「2人で楽しく暮らす」という表向きの笑顔とは裏腹に、涼太の疑心暗鬼な行動はエスカレート。ウソをついて会社を早退し、公園で麗華(仲里依紗)がくるのを待ち伏せしたり、美都が陶芸教室の主婦・佐藤(山田真歩)と食事しているのを監視したりするようになる。このとき、麗華が公園にいる涼太を見つけるシーンも、カットの割り込み方と効果音のチョイスは、完全にシリアルキラーと出くわしてしまったときのそれであった。スタッフのいい意味での悪ノリが随所で光る。

麗華に会いに行ったことを咎める美都だったが、涼太は「どうして僕が怒られるの? みっちゃん、よく考えて。誰が悪いの?」と豹変し、正論で美都をなじり始める。

涼太「どうして? バレると関係が続けられなくなるから? それとも、何も知らない奥さんが知ったらかわいそう? ふふ、それはないよねえ?」
涼太「取り乱したりするのかなあ。どういう風に有島君を責めるのか、ちょっと見てみたいよねえ」

と、急にサディスティックなことを言い出す涼太。かと思えば、耐えきれなくなった美都が家を出て行こうとして「あなたの笑顔は…息が詰まる」と訴えると、泣きながら「うん…そういう君も、好きだよ」と返す。もう感情がぐちゃぐちゃで、何がしたいのかわからない。

そして、そんなご乱心の涼太に対して、2つ買ってきたエクレアを分けっこしながら、「お天道様の罰は雷って言ってたけど、俺にはご褒美だな」と、BLみのある思わせぶりな台詞を吐く小田原の真意もわからない。小田原×涼太か、涼太×小田原か、どっちの妄想のほうがはかどるのかもわからない。

●「私しかいないから」という耐え忍ぶ地味女の家系

そんな混迷する状況にあって、美都は美都で懲りない女である。

別れ話をしようと有島をいつものバーに呼び出しておきながら、「別れ話って、別れるためだけにあるわけじゃ、ないですから」と謎の論理を持ち出して関係を続けようとする。彼女にとって、別れ話は2人をより燃え上がらせるスパイスのためにあるのかもしれない。

家を飛び出してからも、「何してますか?私は今ここにいます」とカプセルホテルにいる写真を送りつけ、「結構心地いいです」「そうでもないです…お風呂につかりたい」「みっちゃんですよー♡♡♡♡」「バカだねあたし……」「有島君!好きよ♡ちくしょう!!」と、情緒不安定なメンヘラLINEを送り続ける美都は、精神的に相当やけくそになっていると見た。

親友の香子(大政絢)のもとを尋ねると、涼太から「みっちゃんはね、いい子なんだよ、本当は」と泣きながら電話があり、頼ってきたら助けてあげてほしいと言われたという。すると美都は、反省するどころか「やられた…先手打たれた」と悔しがる始末。

香子からの「未来のないものにすがって何が楽しいの?」「あっちの家族壊して奪う気?」「有島に大事にされてるとでも思ってるの?」という正論砲を浴びてハチの巣にされ、ようやく「私、悪い大人になっちゃった…」としょんぼりしてみせるが、時すでに遅しだろう。

さて、そんな困った人物ばかりのこのドラマの中で、現状もっとも割を食ってるのが麗華だろう。夫には浮気されるし、浮気相手の女とその夫は挙動不審で、代わるがわる自分に会いにくるし、たまったものではない。

そんな彼女の業と因果が垣間見えるのが、実家における母・多恵(清水ミチコ)との会話だ。麗華の父親は浮気性で、今も出て行ったきり離婚はしていないのだという。その理由を問われると、多恵はこう言うのだ。

多恵「でも、私しかいないから。あの人の周りは、いろんな女の人がいるけど、私みたいな女は、私しかいないから」

はからずも前回、麗華の内面を「どんなに外で女子力高めの女にモテていても、帰ってくる港は私、という地味女の自信と矜持とプライド」があると評した私だったが、まさに多恵こそがそういう女性であり、皮肉なことに麗華はそのメンタルをしっかりと母から受け継いでしまったことが今回で明らかになった。

地味な女は、物分かりのいいフリをして、わがままを言わずに耐え忍ぶのが吉。そうすれば、華やかな女と争わなくても、モテ男の“帰る港”になることができる。麗華が母から学んだのは、そういう生き方だったのかもしれない。

幸い、暴力を振るう父親と違って、有島は“いい夫”であり“いい父親”を演じてくれている。しかし、だからこそ見えないところでしている浮気を咎められないジレンマは、麗華の心をジワジワと殺していたのではないだろうか。

所沢の実家に戻ったのを機に、「2、3日こっちで好きなことしたらいいよ」と麗華を気遣う有島だったが、麗華は「でも私、嫌いなことしてるわけじゃないから大丈夫よ」と答える。つまりこのとき、有島は“いい夫”や“いい父親”以外にも、時間さえあればしたい“好きなこと”が他にあると言外に漏らしてしまったのだ。直接的に責めたり問いつめたりする言葉を奪われた女性は、遠回りになじったり、巧みに罪悪感を負わせたりして相手を追いつめるコミュニケーションに長けてしまう。

仕事で先に東京に帰ろうとする有島に、麗華は「私も帰ろうかな」と言って助手席に乗り込む。そして、これまで言えなかったわがままを、初めて口にするのだ。

麗華「…っていうわがままを、私、今まで言ってこなかったなと思って。私、好きなことしていいって言われたら、とりあえず、あなたを今、一人にしない」

つまりこれは、「おめえが一人のとき何してるかわかってんだよ」という痛恨の蜂の一刺しだ。だが悲しいかな、男はこういう詰められ方をすると、余計に逃げたくなるようだ。有島は、東京に戻ったその足で、性懲りもなく美都に「今から会える?」と連絡。香子の家に泊めてもらっていて立場のなかった美都は、渡りに舟とこの誘いに飛びついてしまう。

美都が香子の家に泊まらず、有島のもとへ走ったことを知った涼太は、ついにぶち壊れ、渾身の名場面であるワインぶちまけシーンで第6話のラストを飾る。

「ぶぎゃあああ!」「ひゃひゃああああ!」と『北斗の拳』のザコキャラのような声にならない悲鳴をあげながら、体幹のおぼつかないふらふらの足取りでワインボトルを振り回す狂気の演技に、筆者は大興奮&大爆笑。巻き戻して5回くらい見てしまった。東出くん…いや、涼太は、このまま正気の世界に戻って来れるのだろうか?

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【2019年の福田から一言】
この辺りの回、あんまり書くことなくて苦労した記憶があります。全てをラストのワインぶちまけシーンがかっさらっていく回ですね。そして、放送から2年経った今も、結局あの蟹が床一面にまかれた悪夢シーンの必然性がよくわかりません。

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