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【第5話】“幸せ探し”が覆い隠す黒い感情――涼太はなぜ“お天道様”にこだわるのか

●“お天道様”がいなくなったとき、涼太の感情が暴走する

前回、美都(波瑠)の不倫をすべて把握していながら、「ずっと変わらず、君を愛する」ことを誓い、「これがぼくの、プレゼントです!」と張り付いた笑顔で言ってのけた涼太(東出昌大)。『シャイニング』のジャック・ニコルソンに負けるとも劣らないそのディープ・インパクト・スマイルは、早くも前半戦のクライマックスを迎えた趣きすら感じさせた。

妻が不倫をやらかしたという、明らかに“絶対勝てるカード”を持っているにもかかわらず、怒ることもなじることも決してしない涼太は、いつも通りの、いや、いつも以上にわざとらしく優しい笑顔で、だからこそ美都を気味悪がらせる。

美都が捨てたアスパラをゴミ箱からわざわざ拾い上げ、まだ使える輪ゴムを再利用すべく引き出しにしまうその挙動も、いつもならただの“堅実で節約家な夫エピソード”だが、今となっては“古くてダメになったものにいつまでも執着する異常行動”に見えるから皮肉なものだ。

「こういうときは罵ってもらったほうが楽だろ。やっぱり涼太さんは、怖い人だね」と、母・悦子(麻生祐未)が言うように、悪いことをしたのに怒られず責められず咎められず、しかるべき罰を受けないままビクビクと負い目を感じながら飼い殺しにされるのは、かえってツラい。これが涼太の確信犯だとしたら、とんだ性悪サディストだ。

しかし、おそらく彼は“怒らない”のではなく、“怒れない”のだ。そのことを指摘したのは、涼太の同僚・小田原(山崎育三郎)だった。

小田原「何されても許せちゃうんだ? 怒れないんだろ。お前は馬鹿みたいに優しいからさ」

涼太はきっと、小さい頃から“誠実で優しく正しい人”であることを周囲から求められ、それを自分にも課していたのだろう。だから、怒りや嫉妬や憎しみといったネガティブな感情の扱い方を知らない。不安なときほど、必死に“幸せ探し”をすることで、黒い感情を覆い隠して見ないフリをする。小田原は、そんな涼太のインスタ投稿を「嘘くさい」と見抜いていた。

そう考えると、涼太がなぜ「お天道様は見ている」という言い方にこだわるのかもわかってくる。彼は、自分の本当の感情に鈍感で、何をしたいのか/したくないのかというモノサシを持っていない。だから、お天道様という“世間の目”に倫理基準や行動規範を丸投げしている。お天道様に見ていてもらわないと、何に従って行動していいかわからないのだ。

あの張り付いたようなわざとらしい笑顔や、「まだ寝ないの?」と言うときの気持ち悪い猫なで声は、いわば処理できなくなったネガティブな感情がバグを起こしている状態。そんな人間が、お天道様が見ていないとき、あるいはお天道様が怒ったときに、どうなるか。持て余した感情のタガが外れて、恐ろしいことになるのは想像に難くない。

果たして涼太は、不審者丸出しの出で立ちで、とうとう美都の不倫相手・有島(鈴木伸之)に会いに行ってしまうのであった。

ちなみに、小田原は前々から、涼太のことをやたら湿度と粘度の高いねっとりしたいやらしい目つきで見つめるシーンが多い。

第3話では涼太を「危うくて放っとけなかった」と発言したり、今回も「結婚相手がかわいくてがっかりした」「お前みたいな男が一番だよ」「お前は馬鹿みたいに優しいからさ」など、完全に少女漫画のオラオラ王子キャラで、涼太を口説きにかかっているとしか思えない。

そういう需要を喚起しようという制作側のあざとさはプンプン感じるが、ここは素直に乗っかって楽しんでしまいたいところだ。

一方の美都も、相変わらず暴走気味である。

美都といえば、視聴者からの「主人公が最低」「なぜこんな役を引き受けたのか」という声に対して、波瑠が反論ブログを書いたことが話題になった。ドラマの役柄に共感や感情移入ができないからと言って、それを演じる役者が批判や文句に晒されるのは、なんとも気の毒で理不尽な話である。

その騒動を受けてのことかはわからないが、今回は美都の親友・香子(大政絢)が、正論でズバズバと美都を説教するシーンがあった。

香子「言わせてもらうけど、初恋とか運命とか、きれいな言葉でコーティングしてるけど、はたから見るとただのよくありがちなそこら辺に転がってる、浮気だよ。結婚という安定を手に入れて、気楽に遊んでただけじゃん」

視聴者の気持ちを代弁することで、溜飲を下げてあげようという狙いだろうか。香子のような良識あるツッコミ役が一人くらいいないと、登場人物全員クセのある総ボケでは、昨今の視聴者はアレルギー反応を起こしてしまうのかもしれない。

そんな香子の忠告もお構いなく、美都は有島とその妻・麗華(仲里依紗)の住む自宅マンションを訪れるという暴挙に出る。しかも、有島が家を出たのを見計らって、麗華だけのときを狙うという周到さだ。不倫にも曲がりなりに作法があるとしたら、このような示威行動は完全にルール違反。それを知った有島も、さすがにドン引き&おかんむりである。

●有島の浮気性に寛容な“帰る港”が麗華のプライド?

前回に引き続き、そんな美都と対峙を果たした麗華だが、クセ者揃いのこのドラマにおいて、実は彼女こそが真のラスボス的存在なのかもしれないと予感させるのが今回であった。

第1話でも描かれていた通り、麗華は有島の高校時代のクラスメイト。当時から地味で目立たない存在で、同級生から存在を忘れられていたほどである。「地味で美人でもないのに、派手な名前つけられたら、辛いだけ」と語る通り、“麗華”という派手な名前に名前負けしていることを気に病み、自分の娘には“亜胡”というおとなしい名前を付けることにこだわった。

今回描かれた学生時代の回想シーンによると、両親の仲が悪く、父親は喧嘩すると家がめちゃくちゃになるほど暴れていたようだ。父親にぐじぐじと言わなくていいことを言って逆鱗に触れてしまう母親と自分を重ね、卑屈になっていた麗華。そんな彼女を持ち前のネアカ・マインドで励ましてくれたのが、有島だった。

当時から、コンサバファッションに身を包んだ女子力高めの子が好みで、モテ力の高さと手の早さ、下半身の身軽さを感じさせる有島だが、麗華に何かあればすぐさま駆けつけるなど、本妻の優先順位はわきまえており、遊びは遊びと割り切っているのはモテ強者の余裕を感じさせるところだ。

そんな有島の遊びグセを、麗華は昔から泳がせていたふしがある。どんなに外で女子力高めの女にモテていても、帰ってくる港は私、という地味女の自信と矜持とプライドがそこには感じられる。美都とのことも、何度も知っている素振りを見せながら、決して核心は突かない。どこか涼太にも似た陰湿さを抱えた麗華こそ、もっとも闇が深く、怒らせたら怖い存在なのではないだろうか。

そして、有島がなぜ本来の趣味ではないはずの地味女・麗華を本妻として選び、大切にしているのかという素朴な疑問に対して、このドラマが用意した答えは「有島シスコン説」という意外なものだった。

どうやら彼は、妹の佳菜(大友花恋)が麗華を指して言った、「ああいう人がもし彼女だったらさ、私少しはニイ(兄)のこと見直すわ。本気で選んできたなあって気がする…から?」という言葉に影響されて、麗華と結婚したようなのだ。事実、その発言を思い出した有島は良心を痛め、美都に「しばらく会わないでいよう」とLINEを送っている。

ひょっとしたら、このシスコン・メンタルを分析すると、有島の新たな心の穴が垣間見えるのかもしれないが、それはこの先の展開で描写されることに期待しよう。

ドラマもいよいよ後半戦。涼太はすっかりご乱心&迷走の様相を呈してきたが、ここまで仲里依紗の出番が明らかに少なかったので、そろそろ麗華の逆襲ターンが見てみたいところだ。絶対とんでもない見せ場を温存しているに違いない。

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【2019年の福田から一言】
結局この、有島のシスコン疑惑(妹が推してくるから麗華と結婚した的な描写)については最終回までなんら回収されなかったんだけど、なんだったんだろう。原作では何か続きがあったんでしょうか。


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