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午前五時半の卵焼き

午前五時、アラームが鳴る
睡眠不足を引きずりながら
タイマーで炊いたご飯を弁当箱によそう
弁当箱は無精な我が家の面々も壊しようがない
昔ながらのアルマイトのものである
大はオット、中は息子。
逆じゃないのか?いや、彼は少食なのだ

卵焼きを焼く。中身は日替わりだ
少ないおかずをごまかすために
栄養素を満たすように具を入れる
私の母はフライパンで焼いていたが
わたしはくるくるの卵に憧れていたから
鉄製の卵焼き器で焼く

お浸しやなんかの青物は大概前夜に
用意しておく。朝は弱いからだ
そして、その日のメインは大概生協の
冷凍物を揚げる
レンチンの冷食はオットが嫌がる
めんどくさいことこの上ない

さぁ、五時半だ、オットと息子を叩き起こす
あいつらはいくら言っても夜は寝ないし
朝は起きない
夜に眠ったり朝、起きるのが心配すぎて
わたしは不眠症になった
嘘のような本当の話だ
毎度ながらくだらない遺伝子に腹が立つ

いかにもかーちゃんに起こされて不満ですと
書いてある顔で我が家の男たちは起きてくる
ついでに犬もエサ欲しさに起きる
そうだ、こいつもオスなのだ

たまにおかずを盗むから気を抜けない

そして夜はさっさと寝ている娘は
七時四七分にエレベーターに乗り
マンションの前で通学団で登校するが
元気に起きてくる
勉強は嫌いだが皆勤賞だ
まあ、小学生らしくて良いと
親バカながら思っている

そして今日はなんの卵焼き?とやってくる

弁当の残りのおかずは朝ご飯に出すのだが、
卵焼きの切れ端は彼女に権利がある
なぜなら彼女には給食があるからだ
羨ましそうに日替わり卵焼きを見る彼女は
毎日人生の重大ごとのようにそれを観察する
満更でもないので端っこは大きめに切ってやる
ドライトマトとパセリととろけるチーズのが
一番好きらしいからたまにしか作らない
たまの歓声を聞きたい母のわがままである

つまみ食いしようとするから
手は洗ったか聞くと
あ、忘れてたと答える。
今のところ百パーセントこの返事
そんな記録はいらない

男どもは揃いも揃って不機嫌に朝ごはんを食べる
いかにも頼まれて食ってますって感じだ
うちは下宿屋じゃないんだよ
しかし娘は卵焼きにコメントしながら…
しらすはいいねとか、肉味噌も好きだな、
海苔は口につくなあとか
まるで世界の幸せはここにありますと
いったような顔で
卵焼きを大事そうに食べる
わたしは弁当のために卵焼きを焼いているはずだが
そんなことはどうでもいいらしい
わたしもどうでもよくなってきた

数日前、扱いづらい鉄製卵焼き器で
自分のための卵焼きを焼いて見せに来たときは
正直びっくりした
ちゃんと巻けている上に
巻き簀で形まで整えてあるが味はない
教えた覚えはないと言うと
YouTubeで見て覚えたと言う
味付けは忘れていたようだ

卵形の色白の顔した娘は
一日にいくつ卵を食う気なんだ
わたしは卵は一日一つまでと言われて育ったから
なんとなく裏切られた気分でもある
栄養学的にどうなのか考えないといけないし
卵の在庫に敏感にならざるを得ない

その頃、犬は人間のおかずを恨めしそうに見ながらドッグフードを食む
なんで俺だけ毎日同じなんだと思っているだろう
犬だからだ

トイレや洗面所でお決まりの戦争をした後

六時四十分に息子
七時四十分にゴミを持ったオット
七時四十五分に飛び出す娘は
七時四十六分に忘れ物を取りに帰りまた出て行く

洗い物の山を横目に見ながら
朝刊を広げてお茶を飲み

犬と一緒にベッドに潜る。


なんせ、今日も三時間も寝ていないのだ

good morning.
おやすみなさい

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