証明写真

証明写真が必要になった。
働くわけではない。
ただ、ある目的に必要なだけだ。

昔からみんなで写真を撮る時はど真ん中でふざけているような人間だった。
しかし、証明写真の類いは苦手である。
3分写真のボックスで、卒業アルバムの撮影で撮る証明写真は大概「困惑」と顔に書いてあるものが出来上がる。


わたしはもちろん美人ではない。
高校時代の担任に「十人並の手本」と言われてその言葉を割と大事にしている程度に自分の容貌に自信はない。

結婚式の写真すら、細工のようにお義理程度に口元を緩めたような写真で、酔って上機嫌な新郎の傍で居心地悪そうに収まる新婦はわたしである。

飲み屋で撮ったスナップ写真なんかは多少くつろいだ様子もあるが目を引くようなものはない。

ある頃からぐんぐん太った私は、子供の行事での写真すら遠近法を最大に活かして後ろに並びたがる。チビなのに。
しかも後ろに並ぼうがムーンフェイスは隠せない。

名古屋に来てからの4年は交友関係も狭まり、写真に映る機会もなく、あってもカメラ係に徹し、見た目が可愛いから買ったNIKONのコンデジをぶら下げている。

そのわたしが証明写真を撮らねばならない。
自意識過剰な証明写真を。

最近、スーツを着る用事はないし、引っ越しでずいぶん処分した。入学式などは綺麗めなワンピースで誤魔化してきた。  

着る服がない、と数日間ごまかしていた。

しかし物事には期限というものがある。
そろそろ重い腰を上げることにした。
綺麗めなユナイデッドアローズの落ち感のある黒のカットソーは買って10年をすぎたがデコルテを綺麗に見せてくれる。
太い丸顔、猪首のわたしにはマストである。

髪を丁寧にブローする。白髪を染めた部分が黒くなってきて不快だ。
買っておいた美容液でリンパ流しをしたりデトックスマッサージをしてメリハリをつけたつもりが付け焼き刃すぎる。
一番軽くてカバー力のあるというカネボウのミラノコレクションというお粉まで奮発したが、それで美人になるわけもない。

不貞腐れて寝た。


しかし、日はないのだ。

鏡を前にして悩みながら冷蔵庫を開けて生ビールのプルタブをひく。

「まあ、とりあえずなんでもいいんじゃない?」って気がしてくる。

そんなわけで写真を撮りに行くことにしたが運転できないではないか!!!


旦那の帰宅を待つことにする。

あああ、わたし、めんどくさい!

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