ハーバード見聞録(10)

「ハーバード見聞録」のいわれ
 本稿は、自衛隊退官直後の2005年から07年までの間のハーバード大学アジアセンター上級客員研究員時代に書いたものである。


ジューン・ブライド(3月21日)
 
6月はローマ神話に出て来るジュノー(女性と結婚生活の守護神)の月であることから、欧米ではこの月に結婚すると幸福になるとされ、特に6月に結婚する花嫁のことを「ジューン・ブライド」と呼んでいる。

6月初めにアメリカに到着した私は、散歩に出るのを日課とした。6月の散歩の間に2組の結婚式を見かけた。一組目は、南北戦争で散華したハーバード大学生・卒業生を記念するメモリアルホールの入り口の階段で、新郎・新婦を中心として記念写真を撮っている光景に出会った。

二組目は、アメリカの詩人の名を冠した「ロングフェロー公園」内の「友人の家」と呼ばれる施設(ルーテル派教会の建物と思われる)傍の、緑の芝生の上で結婚式を挙げているのを見る機会があった。

二つのグループとも白人カップルの結婚式で、参列のお客様はいずれも70名程のこじんまりとしたものだった。興味深いことに、ひと組目のお客様の中に黒人女性がたった一人いるだけで、他のすべてのお客が白人だった。当然の事だが宗教までは分らない。

今頃の季節、普段は半ズボンにサンダルと言うラフなスタイルのアメリカ人が多いが、結婚式では正装し、カッコ良い紳士・淑女に決めていた。彼らは体格もよいし、堂々としていて、見栄えが良い。

二組の結婚式に集った合計150名前後お客のサンプリングから何かを結論付けることは困難である。しかし、たった二組の結婚式の事例ながら「黒人の客一人だけ」とは、興味深い現象ではないか。

ハーバード大学のあるボストン・ケンブリッジ市は、英国から入植した清教徒が拓いたニューイングランド(コネチカット州、メイン州、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州、ロードアイランド州、バーモント州)の中心の一つであり、米国の多数派を形成しているWASP(White Anglo-Saxon Protestants)の基礎が確立されていると思われる土地柄である。

偶然だが、これら二つの結婚式は、WASPのグループのものだったのかもしれない。アメリカは、「人種の坩堝」と言われている。南米各国で、白人とインディオの混血「メスティーゾ」が増えているように、アメリカにおいても、多様な人種の混血が進むのではないかと見られていたが、実はそうではないらしい。

ある学者は、「アメリカは、『人種の坩堝』ではなく、『サラダボール』である。サラダの中のそれぞれの具は混ざっているかのように見えるが、実は絶対に混ざらない」と指摘している。
その説によれば、サラダボール状の多人種混在社会においては、「多種多様な人種が、それぞれのコミュニティーを形成し、むしろ個々の人種や民族のアイデンティティーを強調しながら、互いに異質性を尊重し、共存する」というのだ。

私が目撃した、ふた組の結婚式も米国の人種が「サラダボール状」になっている現象を垣間見せるものだったのかもしれない。今後、黒人カップルや、アジア人カップルの結婚式に出会うのが楽しみである。

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