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036:待ちに待った瞬間〜帰国へ

ブノアからクロボカンの刑務所に移ってきてから約1ヶ月ほどが経過したとき、やっとのことで裁判が終わりました。

当初の予定から若干の予定変更はあったものの、内容も日程もほぼ予定通り。「シナリオ通り」と言った方が良いかもしれません。ヴィラの部屋に警察官が突然来て、訳も分からずに逮捕されてから約2ヶ月。遂に帰国できることになったのです。

もともと無実の罪。それに加えて有能な弁護士がサポートしてくれている。日本なら安心できる状況ですが、何もかもが違うバリでは最後の最後まで気を抜くことはできません。

日本の物価から考えたら信じられない、1,000万円以上という莫大な裁判費用と、約2ヶ月という長い時間はかかりましたが、解放されることが決まってようやく少しだけ気持ちが楽になりました。私が捕まった時、地元の新聞にはこんな記事が掲載されました。

「ドラッグ所持で日本人逮捕。懲役15年か」

状況によってはそれもあり得たということです。同じ棟の人達も、通常は裁判が遅れることも多いので、こんなに短期間で帰国できるというのは異例だと話していました。

刑務所で会った人達の中には、私より遙か前に逮捕されたのに、まだ裁判中だったり、中には裁判すら始まっていない人や、いつ判決が出るかわからないという人が何人もいました。同じ棟のあるインドネシア人は、「弁護士に数百万円の費用を支払ったのに、持ち逃げされてしまった」という信じられないような酷い状況でした。

そういう点では非常に恵まれていたということでしょう。とにかく私は再び自由を取り戻し、無事に日本に帰れる日ことになったのです。

刑務所内での盛大なパーティ

帰国の直前、それまで経験したことがない、とても大きなイベントがありました。それは、しばらく前に同じ棟にやって来た、デディのバースデー・パーティです。

彼はマリファナの所持でここに送られてきたのですが、非常に穏やかで、繊細で、優しく、すぐに仲良くなりました。

そのパーティにはたくさんの人達が招待されました。同じ棟のみんなはもちろん、他の棟の知り合い、一部の看守なども含め、総勢なんと約70名!そしてその費用はすべて彼が負担。つまり「全員フリー」だったのです。

刑務所でパーティをすることも驚きですが、それ以上にビックリしたのは「全員ただ」だったことです。もちろん、彼がそれができるほど裕福だったということはあります。でも、仮にお金があっても、知らない人まで招待してパーティをやるかどうかは別です。彼の行動を見た私は、「自分は今までお金がある時でもそういうことはしていなかったなぁ」と思いました。そして、「将来再び経済的な余裕を手にした時には、周りの人が喜ぶことができる人になろう」と心に決めました。

そのパーティは私が帰国する数日前の出来事でした。バリでの出来事は本当に最後の最後、帰国する直前まで、「それまでの自分に何が足りていなかったのか、これから先、どのように変われば良いのか」というヒントをもらったように感じました。

「所有する」ということについてのヒラメキ

このパーティが行われる少し前の夜、部屋で横になっている時にふと、頭に浮かんできたことがありました。

「自分のものは何ひとつない。全ては神様が与えてくれている」

人は生まれてくるとき、この世に魂ひとつだけでやって来て、死んだときも何も持たずに魂だけで帰って行きます。そう考えると、自分が「所有している」と思っているものは全て「この人生を生きている間だけの借りている」と言えるかもしれません。

そう思うと、そもそも所有していないのですから、何かを「失う」という考えはなくなります。日本に帰る前に、今ここでもう一度そのことをしっかりと心に刻んでおこうと思いました。

バリの刑務所で感謝したこと

当時の日記を読み返すと、その時の思いがこんな風に書かれていました。

今自分が持っているモノに執着せずにそれを手放すことができれば、必要な時に本当に必要なモノがやってくる。
『全てはひとつ』ということを忘れないようにしよう。全ては同じ手〜サムシング・グレート〜によって書かれているのだから。

『手放す』ということは失うことではない。
そう思う事ができると執着しなくなり、リラックスできるようになる。

全ては与えられているもの。自分のモノはなにもないということをいつも胸に、これからの人生を生きていこう。
そして、常に相手のことを考える。どれだけのことをしてあげられるか。いつも愛をもって接し、考え、行動すること。

人に貢献できる人生のために、自分を手放し大きな流れに身を任せる。
そして、未来の豊かな人生に感謝をしながら生きていこう。これからの素晴らしい人生に感謝。そして、これからの素晴らしい出逢いに感謝。

この時感じたことは、今でも私の心の中に生き続けています。

ホテルの部屋に突然警察がやって来たあの朝からこの日まで、決して忘れることができない貴重な2ヶ月になりました。

この間に経験した出来事は、私だけの力では到底乗り越えることはできなかったでしょう。でも、それを乗り越えられたのは、たくさんの人達の励ましや支えがあったおかげです。

私は、それまでずっとサポートし続けてくれた日本の家族や友人、バリの弁護士事務所のスタッフ、そして警察や刑務所の人々に感謝をし、刑務所を後にして日本に向けて帰国の途につきました。

読んでいただいてありがとうございます。何かを感じてもらえたら嬉しいです。これまでの経験について本にしようと考えています。よろしければポチッと・・・。