肥やしの底チカラ

文字どおり人糞尿についての展覧会。2004年に同館で催された「肥やしのチカラ」展をグレードアップした内容で、ひじょうに見応えがあった。展示されたのは、このたび新たに発見された綾瀬作業所の資料をはじめ、古文書や写真、器物など。関係者にインタビューしたにもかかわらず、その映像資料が含まれていなかった点が惜しまれるにせよ、それでも緻密な研究成果を反映した良質の展覧会だった。

展示を見て理解できたのは、

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高田瞽女最後の親方 杉本キクイ

瞽女(ごぜ)とは、盲目の女性旅芸人。主として農村や漁村を巡り歩き、各地で三味線を奏でながら唄を歌う。瞽女唄はテレビもラジオもない時代の娯楽として庶民によって大いに楽しまれた。戦後の経済成長とともに瞽女の文化は衰退してしまったものの、とりわけ新潟県の長岡瞽女と高田瞽女はいまもその芸が辛うじて継承されている。

長岡瞽女といえば、美術家の木下晋が描いた小林ハルが知られているが、本展は高田瞽女の最後の親

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祝いの民俗──ハレの造形

季節や人生の節目を祝う民俗を紹介する企画展。おもに埼玉県内の伝統的な行事に注目しながら、正月、婚礼、棟上げ、進水式などでつくられた飾りや衣装、贈答品などの造形物を展示した。比較的小規模な展示だとはいえ、かつて日本社会のなかで機能していた「ハレ」の機会の実態を総覧できる好企画である。

しめ縄でつくられた宝船、恵比寿様や大黒様を描いた引き札、そして結納品飾りとして送られていた松竹梅の水引細工。それら

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神になったオオカミ~秩父山地のオオカミとお犬様信仰~

ニホンオオカミが最後に捕獲されたのは、1905(明治38)年、奈良県東吉野村。いまからおよそ110年も前の出来事である。以来、公式には「絶滅」したとされているが、目撃談や遠吠えの証言がなくはないことから、野生のニホンオオカミの生存を信じている人は、いまも少なくない。

本展は、動物としてのオオカミと信仰としてのオオカミの両面から人間とオオカミの関係性を探り出したもの。国内では3体しか現存していない

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鴻池朋子展 皮と針と糸と(根源的暴力 vol.3)

「根源的暴力」展(神奈川県民ホールギャラリー、2015)、そして「根源的暴力vol.2 あたらしいほね」(群馬県立近代美術館、2016)に続く、鴻池朋子の個展。基本的な構成は以前と同じだが、作品の見せ方を変えたり、新作を部分的に加えたり、その都度新たな一面を発見させる巡回展である。

今回新たに展示されていたのは、《テーブルランナー》(2016)。鴻池が東北の各地で展開しているプロジェクト「物語る

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鴻池朋子展「根源的暴力vol.2 あたらしいほね」

この夏、中国は重慶に長期間滞在した。重慶市は北京や上海と並ぶ直轄市のひとつで、中国内陸部における重要な経済拠点である。長江と嘉陵江が合流する盆地は起伏が激しく、急な斜面におびただしい数の超高層ビルが立ち並んでいるため、東京以上に立体的で重層的な都市風景が広がっている。街中には仰々しい高級外車と簡素な三輪自動車がめまぐるしく行き交っており、貧富の差が歴然としている感は否めない。けれどもその一方で、ま

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肥やしの底チカラ

文字どおり人糞尿についての展覧会。2004年に同館で催された「肥やしのチカラ」展をグレードアップした内容で、ひじょうに見応えがあった。展示されたのは、このたび新たに発見された綾瀬作業所の資料をはじめ、古文書や写真、器物など。関係者にインタビューしたにもかかわらず、その映像資料が含まれていなかった点が惜しまれるにせよ、それでも緻密な研究成果を反映した良質の展覧会だった。

展示を見て理解できたのは、

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高田瞽女最後の親方 杉本キクイ

瞽女(ごぜ)とは、盲目の女性旅芸人。主として農村や漁村を巡り歩き、各地で三味線を奏でながら唄を歌う。瞽女唄はテレビもラジオもない時代の娯楽として庶民によって大いに楽しまれた。戦後の経済成長とともに瞽女の文化は衰退してしまったものの、とりわけ新潟県の長岡瞽女と高田瞽女はいまもその芸が辛うじて継承されている。

長岡瞽女といえば、美術家の木下晋が描いた小林ハルが知られているが、本展は高田瞽女の最後の親

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祝いの民俗──ハレの造形

季節や人生の節目を祝う民俗を紹介する企画展。おもに埼玉県内の伝統的な行事に注目しながら、正月、婚礼、棟上げ、進水式などでつくられた飾りや衣装、贈答品などの造形物を展示した。比較的小規模な展示だとはいえ、かつて日本社会のなかで機能していた「ハレ」の機会の実態を総覧できる好企画である。

しめ縄でつくられた宝船、恵比寿様や大黒様を描いた引き札、そして結納品飾りとして送られていた松竹梅の水引細工。それら

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神になったオオカミ~秩父山地のオオカミとお犬様信仰~

ニホンオオカミが最後に捕獲されたのは、1905(明治38)年、奈良県東吉野村。いまからおよそ110年も前の出来事である。以来、公式には「絶滅」したとされているが、目撃談や遠吠えの証言がなくはないことから、野生のニホンオオカミの生存を信じている人は、いまも少なくない。

本展は、動物としてのオオカミと信仰としてのオオカミの両面から人間とオオカミの関係性を探り出したもの。国内では3体しか現存していない

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鴻池朋子展 皮と針と糸と(根源的暴力 vol.3)

「根源的暴力」展(神奈川県民ホールギャラリー、2015)、そして「根源的暴力vol.2 あたらしいほね」(群馬県立近代美術館、2016)に続く、鴻池朋子の個展。基本的な構成は以前と同じだが、作品の見せ方を変えたり、新作を部分的に加えたり、その都度新たな一面を発見させる巡回展である。

今回新たに展示されていたのは、《テーブルランナー》(2016)。鴻池が東北の各地で展開しているプロジェクト「物語る

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鴻池朋子展「根源的暴力vol.2 あたらしいほね」

この夏、中国は重慶に長期間滞在した。重慶市は北京や上海と並ぶ直轄市のひとつで、中国内陸部における重要な経済拠点である。長江と嘉陵江が合流する盆地は起伏が激しく、急な斜面におびただしい数の超高層ビルが立ち並んでいるため、東京以上に立体的で重層的な都市風景が広がっている。街中には仰々しい高級外車と簡素な三輪自動車がめまぐるしく行き交っており、貧富の差が歴然としている感は否めない。けれどもその一方で、ま

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