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櫛野展正

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日本で唯一のアウトサイダー・キュレーター、櫛野展正さんの仕事について書いたレビューを中心に、関連するレビューも含めてまとめたアーカイブです(論旨を損なわない程度に語句を調整済)。
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記事一覧

遅咲きレボリューション!

遅咲きレボリューション!

櫛野展正は日本で唯一のアウトサイダー・キュレーター。長らく広島県福山市の「鞆の津ミュージアム」で他に類例を見ない独自の企画展を催してきたが、このほど独立して同市内にアウトサイダー・アートを取り扱うギャラリー「クシノテラス」をオープンさせた。本展は開館記念展に次ぐ第二回目の企画展で、高齢者になってその才能を開花させた表現者たちを一堂に集めている。

参加したのは、ダダカンこと糸井貫二をはじめ、福

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障害(仮)

障害(仮)

同館のキュレーター、櫛野展正は、現在のところ日本でもっとも野心的かつ挑戦的な企画を打ち出している学芸員である。死刑囚、ヤンキー、老人など、従来の「障がい者」にとどまらない、さまざまなアウトサイダーたちによる造形や表現を紹介してきた。「アウトサイダー・アート」や「アール・ブリュット」というより、むしろ「美術」そのものの外縁を拡張した功績は非常に大きい。

今回の展覧会は、「障害(仮)」。末尾の「

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稲村米治 昆虫千手観音巡礼ツアー

稲村米治 昆虫千手観音巡礼ツアー

現在、鞆の津ミュージアムで開催中の「スピリチュアルからこんにちは」展の関連企画として催されたツアー。いまもっとも「やばい」企画を次々と打ち出して高く評価されている同館学芸員の櫛野展正が、参加者10名ほどを引率しながら、群馬県に在住する稲村米治のもとを訪ねた。

稲村米治は今年で95歳(2017年没)。いわゆるアーティストではないが、いまからちょうど40年前の1975年、ひとりで昆虫千手観音像を

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スピリチュアルからこんにちは

スピリチュアルからこんにちは

いわゆる「スピリチュアル」系のアート作品を集めた展覧会。参加したのは、アーティストのRammellzeeや宇川直宏をはじめ、障害福祉施設で暮らしたり、そこに通ったりしている人びと、さらには宇宙村村長や創作仮面館創設者、珍石館館長など、13名。いずれも何かを創作していることに違いはないが、「アート」ではなく「精神世界」を中心にした選定である。

全体的な印象からいえば、いわゆる「アウトサイダー・

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TURN/陸から海へ ひとがはじめからもっている力

TURN/陸から海へ ひとがはじめからもっている力

日比野克彦監修による連続企画展。鞆の津ミュージアムをはじめ、全国4会場を巡回しながら、「ひとがはじめからもっている力」を再認識させる作品を見せた。参加したのは、会場によって異なるとはいえ、Chim↑Pomやサエボーグ、中原浩大、田中偉一郎、岡本太郎、マルセル・デュシャンなど、古今東西さまざまなアーティスト、27組。全般的な傾向として、日比野自身や中原浩大といったベテランのアーティストが、おそらく「

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花咲くジイさん ~我が道を行く超経験者たち~

花咲くジイさん ~我が道を行く超経験者たち~

「老人」の表現に焦点を当てた展覧会。漫画家の蛭子能収や発明家のドクター中松、具体の堀尾貞治、そして伝説のハプナー、ダダカンこと糸井貫二など、ほぼ無名の新人も含めた12人の老人たちが参加した。

現在の日本社会がまぎれもなく少子高齢化社会である以上、社会はおろか経済も芸術も、あらゆる分野にとって少子高齢化は、無視しがたい項目のひとつと言うより、もはや社会全体の前提条件と言うべきである。老人たちが

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山下陽光のアトム書房調査とミョウガの空き箱がiPhoneケースになる展覧会

山下陽光のアトム書房調査とミョウガの空き箱がiPhoneケースになる展覧会

広島に原爆が落とされたあと、広島県産業奨励館(現原爆ドーム)の前に「アトム書房」という古本屋が開かれた。店主は、当時21歳の復員学徒兵、杉本豊。店内に自分と姉の蔵書1,500冊を並べ、店頭には「広島で最初に開いた店」と英文のハリガミを貼り出した。そのねらいを杉本は「これほど破壊されても、日本人はすぐ立ち上がるぞと、気概を進駐軍に示したかった。満州大連育ちで、外国人に臆することはなかったが、被爆の惨

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極限芸術〜死刑囚の絵画〜

極限芸術〜死刑囚の絵画〜

死刑囚たちが描いた絵画を集めた展覧会。実名と匿名合わせて37名によるおよそ300点の作品が一挙に展示された。同類の展覧会としては、たとえば「獄中画の世界 25人のアウトサイダーアート展」(Gallery TEN、2010年)などが先行しているが、これだけ大規模な展覧会はおそらく初めての試みではないか。

会場を一巡してたちまち理解できるのは、いずれの作品も「死刑囚」という不自由な境遇で描写され

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獄中画の世界

「獄中画」とは牢獄で描かれた絵画のこと。帝銀事件の故平沢貞通をはじめ、元連合赤軍の重信房子や愛犬家殺人事件の風間博子、さらには映画監督の足立正生や匿名の獄中者など、25人による40点あまりの獄中画が展示された。

使用できる画材が限定されているせいか、ボールペンだけで緻密に描きこんだ作品が多いが、モチーフは風景や動物、仏像など幅広い。企画者が「アウトサイダーアート」として位置づけているように、展示

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