福岡現代美術クロニクル 1970-2000

福岡の現代美術を歴史化した展覧会。九州派以後の1970年からの30年間を対象に、85人の美術家による約130点の作品を通時的に展示した。

2つの美術館にまたがるボリュームのある展示を見て気がついたのは、2つ。ひとつは、松本俊夫と川俣正の存在の大きさ。本展でも明らかにされていたように、ミニマリズムや新表現主義といった流行の表現様式が福岡のアーティストに多大な影響を及ぼしたことは事実である。ただ、それにもまして、たったひとりのアーティストがひとつの表現様式に匹敵しうるほど大きな影響力を及ぼすことがありうる。それは、福岡のような適度な地方都市だからこそ可能な条件なのかもしれないが、こうした内部と外部をつなぐ人的な交流は、地方都市の今後のアートシーンを考えるうえで、重要な示唆を与えるのではないか。

もうひとつの発見は、川原田徹の存在。トーナス・カボチャラダムスの名でも知られる画家で、ブリューゲルのような細密な油彩画やエッチングを制作している。本展では、九州派以後の70年代に位置づけられていたが、これはあくまでも通時的な展示構成の必要を満たすためであって、川原田が70年代に限って制作しているわけではもちろんないし、時流や美術運動とはまったく無関係に制作している。つまり、展覧会の通時性はえてして直線的な歴史観を誤認させてしまいがちだが、実際の歴史は複線的であり、無数の単独者が錯綜としているものである。通時性による歴史化は表現様式や表現集団の変遷によって遂行されやすいが、しかし川原田のように、特定の表現様式や表現集団の交代劇から離れたところで活動を持続させているアーティストの存在を抜きにして歴史を物語ることはできない。「歴史」や「批評」、ないしは「研究」といった物語からこぼれ落ちてしまいがちな歴史的真実に目を配ることこそ、歴史の記述に必要とされる態度ではないだろうか。

初出:「artscape」2013年03月01日号

福岡現代美術クロニクル1970-2000       会期:2013年1月5日~2013年2月11日
会場:福岡県立美術館、福岡市美術館

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