Perfume『PLASMA』が時間の不可逆性を突きつける

これまでのPerfumeの表現の大半には未来感があって、その未来感に我々は常々魅了されてきた。
「かつてのハイテクな未来への無邪気な希望」から「ハイテクによって生み出された無機質性との別れ」というように形こそ変容しているが、"アンドロイド&"や"さよならプラスティックワールド"の表現などにふれれば、先の未来感は今作『PLASMA』にも十分感じられるものである。

しかし、今作のコンセプトが今までと少し異なっているのか、聴き手の自分自身が社会人になってしまったからなのか、理由は定かではないが、『PLASMA』を聴いていると既出の未来感よりも過去への意識を強くさせられるばかりである。

かつての"Night Flight"と同じ感じで"Time Warp"を聴いてYMOを感じたり、"Spiinnig World"でプリンスやマドンナ的なフィーリングを感じたり。自分は1999年生まれだけど、あるあるチューブでいうところの「ない記憶を刺激する」みたいな感じで、楽曲を通して自分が行ったことない時代に行くことができる。
そして、今作のさらなる特徴はPerfumeの過去の作品を想起させる楽曲が目立つということ。
"アンドロイド&"や"∞ループ"、"マワルカガミ"のサウンドを聴いて、『JPN』とか『GAME』とか『LEVEL3』を思い出すみたいな。
過去のPerfumeの表現のすばらしさ、あるいはそれを聴いて熱狂していた自分自身の記憶を思い出す。
あの頃は無邪気だったなあと、そんな風に今作には色々な過去の「よかった」時代にgo backさせられるし、それが今作の一番ぐっとくるところ。

で、過去へ思いを馳せていると次第にバッドモードに入る。
確かに世界はジャクソンブラウンの言うようにどんどん下り坂で、戦時下だし、ドメスティックではボブディランがうたった"Murder Most Foul"が実に起こってしまって、さらには円安で物価高で、子供のころに食べてたキット○ットは今やずっと小さくなって売られている。
個人としても、かつては「働かずしてたらふく食べたい」とぬかしていたのに、4月で社会人になって未来を見渡すとそういうわけにもいかなさそうなことが分かってきた。
もっと言えば、BBHFの言うようにすべては死に向かっているし、やっぱり未来は全然明るくない。

そこで、今作の他の表現、とりわけリリックに着目する。
まさしく"Flow"は時間の流れが歌詞のテーマになっているし、"Drive'n The Rain"は雨のなかで(見つからないであろう)キミをさがしていて、"ポリゴンウェイヴ"だって機械的で無機質になってしまった世界でかつての人間的なものを追い求めている。
楽曲を通して過去というバーチャルな世界にいくら行ったとしても、それは飽くまで架空で、肉体的に過去にさかのぼることは出来っこない。
それでいて、現在あるいは現在から予測できる未来はしんどいし、それどころか生を受けた者はすべて最大の不幸であろう死に今間違いなく向かっている。
過去で見てきた光は今見えている視界からは無くなっている。
今作『PLASMA』は、時間の不可逆性と現世の惨状から生み出される辛さ、しんどさをも己に突き付けてくる。

だからこそせめて「未来は良くなる」というメッセージをPerfumeからもらって己の勇気に変えたいと思ったりするのだが、この作品はそんなに優しくない。

先にふれた"アンドロイド&"や"さよならプラスティックワールド"の未来感じる表現もやっぱり現在のディストピアからの脱出という表現にとどまっていて、「未来に希望がある」ということまではなかなか示してくれない。かつてがどうだったかは他所にして、少なくとも今作は上記の未来への不安に対して、答え、結論、納得感を出していない。

そして、不安から逃避するようにして、『PLASMA』では、「円」や「循環」みたいなものを題材にした表現が目立つ。
"再生"や"Spinning World"、"∞ループ"、"マワルカガミ"、全てが時間軸の話をしているように聴こえるわけではないが、先のように悉く時の流れに意識を持っていかれてしまってる自分には多くが時間の循環の話をしているように聴こえてきてしまう。
それでいてやはり「時間が循環するのが理想だ」という結論に至っているわけでもない。特に"マワルカガミ"のリリックからは永くステージに立ち続けることの大変さ(=偉大さ)ばかりが感じられ、同じことが回りまわって続くことは別にユートピアでもなんでもない、そういうメッセージばかりが頭に入ってくる。

今作『PLASMA』は社会人になってしまった自分に時間の不可逆性を提示し、現在とそれから予測される未来の惨状を改まって意識させ、それでいて結論を示さずに解決策も与えてくれなかった。

特定の作品を題材に文章を起こすという観点では、「Perfumeは未来に希望を与えてくれる!最高!」とか結論付けたほうがラクなんだけど、そういった親切さはまったくない。

先述のように、
サウンドには過去回帰的な音色から得られるエモさ/甘さもあるが、リリックから得られるメッセージは無邪気には受け取れない、苦さのつまった内容になっている。
今作のイメージを言い表せば、ふわっと香るフローラルとかじゃなくて、酸いも甘いも、、いやほぼ酸味みたいなやつをガツンと突き付けてくるシトラスつよつよな感じだ。
上記の酸味が多いことに起因して、『PLASMA』は己が人間としてこれから向き合うべき問題を心の奥まで突き付け、自分事として意識付けさせる。
「考えさせる」とかいうロジックのレベルを超えて、より深くエモーショナルな部分にインパクトを与える。
確かに円とか丸みとかが多くテーマになっているけど、自分にとってはむしろとても尖っていて人の深い部分をえぐってくるのが今作だ。

だから、Perfume『PLASMA』はとっても意地悪だけど自分にとって重要な作品だ。
そういう言い方をしたいと思う。

過去はかえって来ないし、未来が不安すぎるということには相変わらず打ちのめされるけど、けどだけど「時間は回る、輪廻転生まじまんじ」みたいな逃避をしすぎずに、何とか自分の幸せをつかみ取らなきゃっすね。

2022年に社会人になって思考停止というかぼけっとしていた自分に良い喝を入れてくれた作品だった。

(もちろん自己責任論には中指を立てている人間なので、周りに支えられながら周りに迷惑かけながら、みんなで幸せつかめれば最高だよね☆)

以下、Perfumeの話したいのに、勢い余って言及してしまった作品たち。

・あるあるチューブ 

・ジャクソン・ブラウン 『Downhill From Everywhere』

・ボブ・ディラン "Murder Most Foul"

・BBHF "どうなるのかな"


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