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なぜ長野県の車は横断歩道で止まってくれるのか?

うっすら思ってはいたんですよね。長野県に移り住んでから、信号のない横断歩道でも歩行者がいると結構な確率で車がちゃんと止まってくれるなって。

だけど長野県だけが全国でも特異レベルで突き抜けてるとは思わなかった。いったい、なぜなのか? 

東京暮らし(東京に限らないことが今回のJAFの調査結果公表でわかったけど)では、横断歩道で止まってくれる車はほぼ皆無。車が途切れた隙に渡るが常識になっていたので探ってみました。長野県の事情とは――。

・全国平均では9割の車が横断歩道で止まらない

そもそものデータはこれ。JAF(一般社団法人 日本自動車連盟)が各都道府県2か所ずつ(全国合計94か所)の信号機が設置されていない横断歩道で、1か所あたり50回の横断(合計100回の横断)をして、何台の車が一時停止してくれたかを調査したもの。

全国平均は8.6%。9割以上の車が横断歩道で歩行者が渡る意思表示をしても止まらなかった(止まれなかった)という結果でした。

まあ、そんな感じですよね。むしろ歩行者側も「危ないから車が来ないときに渡ろう」という感覚。その“常識”で長野県にやって来たら、こっちが歩いていて横断歩道の手前ぐらいのところで、もう走ってきた車がスピード落してくれて逆に「え?」ってなったことが多数。

思わずドライバーさんの顔を見たら、そのときには車が停止していて、小さなアイコンタクトとか合図で「渡って」と言ってくれるわけです。

歩行者としてもだし、逆に自分が車を運転していて、他の車がそうやってるのを見かけることも多数。もちろん、僕も倣ってます。

・調査開始以来「止まる率」1位の長野県

だんだん自分でも当たり前の感覚になりつつあったのですが、今回JAFが初めて「全都道府県の調査結果」を公表。長野県が今回も断トツ58.6%の「横断歩道で車が止まってくれる率」という数字だったことで「なんでだろう?」とあらためて不思議に思ったわけです。

一応、車のルールをおさらいしておくと「道路交通法」第三十八条には(横断歩道等における歩行者等の優先)という項があって、ざっくり言えば「信号のない横断歩道で歩行者や自転車が横断しようとしていたら、車は必ず徐行、一時停止して横断を妨げないようにしないとダメよ」となってます。

(横断歩道等における歩行者等の優先)第三十八条 車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。                出典:総務省行政管理局e-Gov法令検索

これ、結構ドライバーが勘違いしがちですが、既に横断歩道を渡っている歩行者がいるから「一時停止」ではなく、まだ渡ってなくても「これから渡ろうとしている」場合でも本来は徐行して一時停止が原則。

それを無視して車が通過すると「横断歩行者妨害違反」が課せられ、行政処分として「基礎点点数2点」と反則通告制度で普通車の場合9000円の罰金が!あと、最近は「横断歩行者妨害違反」に重点を置いた取り締まりも強化されてるようです。

でも、だからって長野県がそういったルールに厳格な県民性だからということでもなさそう。まあ、真面目は真面目なんだけど。

・返報性の法則が働いてるからでは?

この調査結果を長野県で生まれ育った人に聞いてみたところ、多かったのが「そう言われればそうかもしれない」「特に意識してない、ふつうのこと」という答え。

特に教習所でも長野県だけ「横断歩道で人がいたらちゃんと止まりなさい」と厳しく指導してるわけでもない。まあ、そもそも全国共通ルールですし。

実際、JAFでも初めてこの調査を行ったとき、長野県が異様に「止まってくれる率」が突出してるので「異常値じゃないか」と疑って、長野県だけ再調査したんだとか。それでも数字は変わらず。

それぐらい、まあまあ多くの長野県民は「横断歩道付近に歩行者や自転車がいたら止まる」が日常になってるんですね。

こういうとき「みんながそうしてるからでしょ」と考えてしまいがちですが、こっちで実際に暮らしてみると、どうもそうではないんじゃないかと。

なんだろう、もっと「個人的」なところに根っこがある気がするんです。自分が子供のとき、物心ついたときから「横断歩道で車が止まってくれる」のを経験して育ってること。そして親とかと乗ってる車でも、人が横断歩道にいたら止まるのを見てる。

その積み重ねなんじゃないか。そうやって大人になって自分が車を運転するようになったら自分も「自然に」そうしてしまう。あるいはしてあげたくなる。

そう、心理学でいう「返報性の原理」です。自然にそうしてしまう、したくなるのがポイントなんじゃないのかな。

・よし、どこ行っても車で徳を積もう

人は良くも悪くも「自分がしてもらったこと」を誰かにも返したくなるもの。

なので、長野県に限らず「横断歩道で車が止まってくれる」現象が自然になるには、何かの強制力とかではなく運転したときに「自分がそうする」の徳を積んでいくのが遠回りでもいいのかも。

実際に長野に来ることがあれば、ほんと、普通に横断歩道を渡ってみてほしい。車がすっと止まってくれて、なんか自然に気持ちいいことが少し体感できるし。決して優越感とかではなく(そういうことじゃない)。

そのあと自分が車を運転して横断歩道で歩行者を見かけたら「自然に」止まろうという気持ちが芽生えるので。

もちろん全長野県のドライバーが他県より常にいい運転をしてるという話ではないです。それでも、JAFの数字が「ああ」と思えるぐらいは実感できます。ぜひ!