P6300649のコピー

憧れられたい、と彼は歌った。

ストーン・ローゼズというバンドがいる。

ファーストアルバムの発表が1989年。ぼくが高校1年生のころだ。その悪い冗談みたいなバンド名にぼくは、てっきりコミックバンドなのだと思っていた。ローリング・ストーンズとガンズ・アンド・ローゼズのパロディをやるバンドなのだと思っていた。

ところが、いつだったかの月曜日。全校朝礼のためグラウンドにぞろぞろ出ていくとき、音楽通として一目置いていた友だちが、別の誰かとひそひそしゃべっていた。「ストーン・ローゼズって聴いたことある?」「名前は知っとる」「あれ、なんかめちゃくちゃいいらしいぜ」。

ふーん。いいんや、あれ。その会話が気になったぼくは、タワーレコードに出かけ、彼らのファーストアルバムを買ってみた。冒頭の1曲目、いきなり流れてきたのはこれである。

タイトルは " I Wanna Be Adored "。邦題はほぼ直訳で「憧れられたい」だ。

5年前、ぼくは彼らの再結成コンサートのため、マンチェスターに出かけた。全世界から3日間で合計22万人ものファンを集めたコンサートは、それはそれは興奮と感涙の、すばらしい体験だった。

マンチェスターでは、コンサート以外でもたくさんの「ゆかりの地」を訪ねてまわった。そのなかでも、デビュー間もないころの彼らが出演していたライブハウス跡地(現在は閉鎖)を訪ねたときには、なんだかもう頭がくらくらしてしまった。

ああ、こんなところで彼らは、10人や20人のお客さんを前に、へたっぴにもほどがある声で、前を向いて『憧れられたい』と歌っていたのか。なんて意志だ。なんて勇気だ。なんて切なさだ。


きょう、ぼくはある方から「自分を言い表すとしたら?」と問われて、ほんの少しだけ考えたあと、「あこがれたい人」と答えた。

そうだ、ぼくはずっと「あこがれたい」んだ。あこがれの対象を探して、いまもいろんな人を眺め、いいなあ、かっこいいなあ、できることなら自分もあんなふうになりたいなあ、と願っているのだ。


誰かへの「あこがれ」がぼくを、ここまで連れてきてくれた。10年後、20年後のぼくは、誰をあこがれているのだろう。考えるとなんだか、わくわくしてくる。世界が、いいところに思えてくる。