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けっきょくこんな話かよ。

あれは『釣りキチ三平』の影響だったのだろうか。

小学生のころ、ちょっとした釣りブームがぼくの周辺で湧き起こっていた。おぼろげな記憶によると、『釣りキチ三平』のアニメ放送は小学校の低学年時代だったのに対し、ぼくらの釣りブームは高学年あたりまで続いた。その間、これといって釣りを題材にした人気マンガの記憶もなく、つまり田舎の小学生はみんな釣りをしていた時代だった、それだけの話なのかもしれない。

子どもたちの釣りは、たいてい川釣りからはじまる。ミミズや自家製の練り粉をエサとした、フナ釣りやウグイ(ハヤ)釣りから、釣りキチ道はスタートする。そしてなんとなく、最終到達点に海釣りがあった。荒波押し寄せる岸壁に立って、イシダイなどを釣り上げることが、釣りキチ道のゴール地点のように語られていた。そもそもフナに代表される川魚は臭くて食えないけれど、海の魚は食べられる。きょうの家族の晩飯を、おれが釣り上げるのやもしれぬ。川釣りと海釣りは、その実戦性や有用性においてルチャリブレと極真空手くらいの違いがあった。

しかし、意気揚々と海釣り(初級編としてのハゼ釣り)に出かけたぼくを待っていた川と海の最大の違い。それはエサだった。川釣りで愛用していたミミズを使うことは禁じられ、ムカデとミミズがグロテスクにキメラ化したような生物、ゴカイを使えと言われる。それでなくては海の魚は釣れぬ、と言われる。ミミズはぜんぜん大丈夫なぼくだったけど、なぜかゴカイは駄目だった。心底きもちわるかった。結果、ぼくは二度と海釣りに行くことはなくなった。


心優しい釣りキチのみなさん方は「それは誤解だよ」と言ってくれるだろう。余計なことに「ゴカイだけに」なんて薄ら笑いを浮かべながら。たしかに誤解なのだと思う。海老で鯛を釣る、の言葉があるように、あのキメラ生物を使わなくても釣れる魚はいっぱいいるし、むしろそっちが王道なのだと思う。しかもそもそも、ぼくは海釣りや川釣りの話をしたかったわけじゃないのだ。ただ世間に流布している「ある誤解」についてなにかを書こうと思い、その導入にゴカイの思い出を書いたら、こんなに長くなってしまったのだ。最近こんなのばっかりだけど、しょうがないじゃないか、ぼくはそういう人間なのだし、ここはそういう場所なのだから。

というわけで明日、本題であったはずの「ある誤解」について書こうと思います。ミミズじゃないよ、ゴカイだよ。ゴカイじゃないよ、誤解だよ。