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あんな夢は、もう見ない。

いつのころからか、あの夢を見なくなった。

おそらくは大学4年生と思われるじぶんが、どういう理由からか単位の取得に失敗し、卒業できなくなるという夢である。もう少していねいに言うと、卒業できないことに気づいた瞬間の、ジェットコースターが急降下するときのような、足もとが抜けてしまって胃袋が浮き上がったような瞬間の、夢である。20代のころは割と頻繁に見ていたこの夢、さすがにこの数年はまったく見ることもなくなった。

おそらく今後も留年する夢など見ることのないまま、ぼくは仕事で手ひどい失敗をする夢を見たり、犬が怪我する夢を見たり、誰かから軽蔑される夢を見たり、そんなこれからを過ごしていくのだろう。


われながら馬鹿馬鹿しい話だと思うのだけれど、ぼくは高校時代の一時期、女優さんとお付き合いする夢を見ることがあった。助平な要素のまるでない、プラトニックな交際の一場面を切りとった夢である。いちばん鮮烈におぼえているのは牧瀬里穂さんとロマンチックな出会いを果たし、お付き合いするに至る夢で、前後編を二夜連続で見るほどそれは真剣な夢だった。もちろんたのしかったし、何夜でも続けて見たかった。

そしてある時期から、落第だの留年だの紛失だの失敗だのといった夢ばかりを見るようになっていったのだ。

きっとそれは年齢を重ねるごとに、人生に与えられた〝事件〟の可能性が、「獲得」から「喪失」へと変わっていったからなのだろう。


心配ごとの多い人生とは、好意的に見れば「もっているもの」の多い人生なのだ、きっと。

郷に入ってはひろみに従え。
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古賀史健

ライター。バトンズ代表。著書・共著「嫌われる勇気」「古賀史健がまとめた糸井重里のこと。」「20歳の自分に受けさせたい文章講義」など。週日更新しています。http://www.batons.jp

古賀史健(2018)

古賀史健の note、2018年分です。
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