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オーダーメイドの幻想。

オーダーメイドの服がほしい。

いちばんわかりやすいところで言うと、オーダーメイドのスーツがほしい。つくればいいじゃないか、あつらえればいいじゃないか。そういう声も聞こえてきそうだが、違うのだ。これはオーダーメイドということばの定義にかかわる、大切でめんどうくさい問題なのだ。

オーダーメイドの服とは、要するに「おれに合わせた服」である。ふつうの服がSだのMだのLだのの大ざっぱな分類に「おれを合わせる」しかないのに対し、ジャストサイズで「おれに」合わせてくれる。それがオーダーメイドだ。

しかし、この「おれ」は「ほんとうのおれ」なのか。

哲学的問答としてではなく、身体測定的な問いとして、ぼくは首を傾げる。「ほんとうのおれ」は、こんなだらしない身体をしているのか。もう少し、なんというかしゅっとした、少なくともあと5キロほど痩せた人物が「ほんとうのおれ」ではないのか。だとすれば、まずは減量痩身に励んで、ちゃんと「ほんとうのおれ」を獲得したのちに、オーダーメイドの服をつくるべきじゃないのか。そうしないとおれは、このだらしない身体を「おれ」だと認めることになってしまわないか。

そんな逡巡をしているうちに服のことなどどうでもよくなってピザを食べるのが、ここ数年の「おれ」だ。


という話をしているのも、じつはオーダーメイドの服がほしいのではなく、枕がほしいのである。いまから10年以上前、とある百貨店で一度だけ、オーダーメイドの枕をつくった。寝心地は悪くなかった。けれどもいつしかその枕を放置し、テキトーな三文枕で睡眠するようになり、たぶん引越に合わせてその枕を捨て、このところ首が痛くてたまらない。枕以外に思い当たる節のない謎の痛みに、サロンパスが手放せなくなっている。

枕、またつくりにいこうかなあ。

それともどこかに、オーダーじゃないけどぴったりな枕、あるのかなあ。